元球児の塗師・中川さんが制作 甲子園の優勝盾

今夏、第108回全国高校野球選手権大会を制し、5年ぶり4度目の頂点に立った智弁和歌山高校。激闘の果てに選手たちが誇らしげに掲げた重厚な優勝盾に美しく深い光沢をもたらしたのは、滋賀県長浜市で220年の伝統を受け継ぐ5代目塗師(ぬし)・中川喜裕さん(36)の手仕事。わかやまスポーツ伝承館(和歌山市本町)で18日まで開催中の「智弁和歌山優勝展」で、匠の技が込められた逸品を間近で鑑賞できる。
中川さんは、延暦寺学園比叡山高校の野球部出身。かつて自らも甲子園を目指し、白球を追いかけた元球児でもある。3年夏の敗退を機に野球に区切りをつけ、江戸時代から代々続く「カネイ中川仏壇」の家業を絶やさず未来へつなぐため、塗師の道を歩むことを決意した。高校時代に厳しい練習をやり抜いた経験を糧に技術を磨き、現在は5代目として伝統を受け継いでいる。
夢の舞台へ届かなかった過去を持つ中川さんにとって、優勝盾の漆塗りを引き受けたことは「一度夢破れた聖地に職人として関わる」という特別な縁となった。盾の制作にかかる期間は約半年。漆塗りの最高峰とされる「呂色(ろいろ)」仕上げを採用し、下地作りから幾度もの塗りと研ぎ出しを重ねる。最終工程では、手のひらで直接塗面を磨き上げるという極めて繊細な作業を経て、独特の深い艶と堅固さを生み出している。
優勝盾は同館で一般公開された後は同校内で保管されるため、一般の目にふれる機会は今が唯一のタイミングとなる。選手たちの努力の結晶である勝利と、職人が半年間の情熱を注ぎ込んだ伝統技術。智弁和歌山が手にした優勝盾には、勝者をたたえる美しさとともに、裏方として大会を支えた一人の職人の熱い思いが込められている。
中川さんは「過酷な練習を乗り越えてつかみ取った栄冠に、心から敬意を表したい。半年かけて魂を込めて塗った盾が、皆さんの手で掲げられた瞬間は職人冥利(みょうり)に尽きる。伝承館でご覧になる方々にも、漆ならではの深みや職人の手仕事を感じ取っていただければ」と呼びかけている。
【わかやまスポーツ伝承館】和歌山市本町2の1フォルテワジマ3階▽午前10時~午後7時(最終入館は6時半)


