多様なアレンジも魅力の「甘夏」
前号では、糖度15度超えの甘味が魅力の「カラマンダリン」を取り上げた。間もなく6月。春柑橘(かんきつ)の中で、最後まで店頭に並ぶのが「甘夏(あまなつ)」=写真=。今週は甘夏を紹介したい。
甘夏は、昭和10年ごろ、大分県で発見された品種。夏みかんとして育てられていた果樹の中で、その樹だけ酸が抜けるのが早いことが目に留まり、栽培が広がったとされる。正式名称は発見者の名にちなみ「川野夏橙(かわのなつだいだい)」という。
果実の重さは300㌘から500㌘でずっしりした重み。外皮が分厚く手で剥きづらいが香りが良く、ぷちぷちとした果肉と甘酸っぱさが特徴。生食の他に、サラダにトッピングして爽やかに食べたり、ほろ苦さをアクセントにしたスイーツにしたりと用途はさまざま。食べる以外にも、外皮を搾り精油されたエッセンシャル(アロマ)オイルが販売されるなど、多様なアレンジができることも魅力。
甘夏にはビタミンB1が豊富に含まれることから、糖質の代謝を促す効果があり、さらに甘酸っぱさの中にクエン酸が含まれることから疲労回復が期待されるなど、この時期の急な気温の変化や高い湿度で疲れた体に有効な柑橘でもある。
農水省統計(2017年)によると、主な生産地は、鹿児島県(33%)、熊本県(21%)、愛媛県(19%)、和歌山県(8%)、静岡県(4%)。最盛期の1980年代に年間30万㌧もの収穫量があったが、現在は3万㌧程度にまで減少。一説には、似た味わいのグレープフルーツの輸入自由化が原因とされる。
古くから親しまれてきた味。アレンジ次第で楽しみ方が多様な甘夏は、6月下旬ごろまで店頭に並ぶ。
(次田尚弘/和歌山市)