切って驚き「仏手柑」

前号では、ユニークな形で知られる柑橘(かんきつ)「仏手柑(ぶっしゅかん)」が漢方薬として利用され、健康維持に効果があることを取り上げた。漢方薬としての活用の他、柑橘としての味わいはどうか。仏手柑を切って中身を見てみることにした。今週は仏手柑の驚きの事実と食し方を紹介したい。
仏手柑は見てのとおり縦長の形をしている。しっとりとした肌触りの外皮と、それなりの重量感から、その中にどのような果実が隠れているのかと期待しながら、包丁を入れることにした。切って驚き。果実が全く無く、綿のような白いものがほとんど。心地よい香りが広がるものの果汁もなく、食用とは言い難いものだった。
仏手柑は「果実が無い蜜柑」と言われ、みかんやレモンのような果汁を含んだ房が無いのが特徴。食する方法としては、何度もゆでこぼしを行いアクと苦みを取り、シロップで煮詰め、砂糖漬けにした「コンフィチュール」や、スライスしたものに砂糖とレモン汁を加えて煮込んだ「マーマレード」にするなど主に外皮を使ったものとなる。
農水省統計によると2011年時点で、鹿児島県で2㌧、和歌山県で1㌧を生産。2012年時点で、鹿児島県で1㌧生産されていた記録があるが、2013年以降は統計上の記録がなく、1㌧に満たない生産量になっているものと思われる。
「果実が無い蜜柑」として、観賞用や漢方薬の利用が主のユニークな柑橘である仏手柑。古くから伝わる文化や芸術が徐々に衰退しつつあることが、統計からも見て取れる。
(次田尚弘/和歌山市)