樹上で熟成「さつき八朔」
前号では、100年以上の歴史を持つ「福原オレンジ」を取り上げた。収穫まで果実を木で実らせてから収穫する木成り栽培が行われ、この時期に出回る柑橘(かんきつ)が他にもある。今週は「さつき八朔(はっさく)」を紹介したい。
さつき八朔とは、5月ごろまで樹上で熟成させ収穫した八朔のこと。通常、八朔は12月ごろから翌年2月ごろに収穫され、しばらく貯蔵し酸味を抑えてから出荷するのが一般的。さつき八朔はそれよりも2カ月以上収穫を待ち、樹上で完熟するのを待ち収穫する。
通常の収穫期を大きく超え、5月まで樹上に残すのは難しいことであるという。何より、八朔は霜の影響を受け、腐りやすく越冬が厳しい。また、長期間樹上にあることにより強風や、動物による被害、病気などさまざまなリスクがあり、収穫までに約半数が落下してしまう。収穫できるのは厳しい環境を耐え抜いたもので、希少価値が高いといえる。
食してみると寒い時期に食べる八朔とは一味違う。蜂蜜をかけたのかと思うほどの甘さがあり、酸味もバランスよく残っている。八朔特有のサクサク感もある。この甘さを生かし、洋菓子に採用されることや、ゼリー、ピールに加工されるなど、料理人の中でも知られた存在であるという。
県内の主な生産地は日高町や由良町など紀中のエリア。前述のとおり紀北では霜の影響を受けやすく、八朔の木成り栽培は難しいとされる。
農水省統計(2018年)によると、八朔の都道府県別シェアの第1位は和歌山県で、全国の75%を占める一大産地。温暖な気候を生かしたこの時期限定の八朔をご賞味あれ。
(次田尚弘/和歌山市)