「勝つため」挑む夏 貴志川高の野球部3人

和歌山市の紀三井寺球場で12日に開幕する「第104回全国高校野球選手権和歌山大会」に出場する貴志川、有田中央、串本古座の3校による連合チーム。中でも貴志川高校は最も部員数が少なく、3年生3人のみ。それでも常に勝つことを意識し、秦野俊哉監督指導のもと、心・技・体を鍛えながらひたむきに練習に打ち込んできた。「人数が少なかったからこそいろんな経験ができた」と笑顔で話す3選手の〝最後の夏〟がもう間もなく始まろうとしている。

同高野球部は昨年夏、12人いた3年生が引退し、当時2年生の笠松亜寿(あーす)選手、田村拓巳選手、下和田悠斗(はると)選手の3人となった。

秋の新人戦は紀北農芸との連合チームで臨み、春には新入部員が入ってくることに望みを懸けたが、結果はゼロ。新入部員が入った紀北農芸との連合チームは解体し、コロナ禍で他校との合同練習ができない状況に、改めて部員数3人という現実が立ちはだかった。

不安な選手らを奮い立たせたのは、「春夏の大会は何としてでも出られるようにするから、どこに出ても恥ずかしくないように練習を」という秦野監督の言葉。主将の笠松選手は「監督の言葉を信じて練習に打ち込み、不安がなくなった」と振り返る。

3人になった後も平日の練習に加え、週末は2部練を継続。体育教諭らの力も借りて野球の土台や点の取り方などの基礎から鍛え直し、「ホームランを打てる体づくり」のための食事トレーニングにも励んだ。密な時間を共にしてきた3人は「お互いに今何を考えているのかまで分かる」といい、「家族みたいな存在」とはにかむ。

常に前を向き、ひたむきに練習に打ち込む選手らの姿に、同校野球部のOBでもある秦野監督は「3人でもこれほど一生懸命できるんやというのは、一人の野球人として学ばせてもらった。3人の頑張りは尊敬に値する」とたたえ、「大会への出場」を自らの使命とした。

春の大会は有田中央との連合チームで出場。5月には串本古座が連合チームに加わり、3校で夏の大会に出場することが決まった。同大会への連合チームの出場は2013年、学校統合による「和歌山西・和歌山北」以来。人数不足による連合チームが同大会に出場するのは今回が初めてとなる。

連合チームでも主将を務める笠松選手が持ち前のリーダーシップを生かし、積極的にコミュニケーションを取りながらチーム力を高めてきた。「最初は他人と野球をやっているような感じだったのが、今では連合って思わんぐらい一つのチームになっている」と手応えを感じている。「3勝して各校の校歌を歌いたい」と意気込み、連合チームでベスト8を目指す。

秦野監督は「人数が足りないから組むのではなく、勝つために組むという意識をしっかりと持ち、連合チームでも勝ちにいく野球ができるということを公式戦の結果で示したい」と話し、三つのユニフォームの躍動に期待する。

関わってきた人の数だけ心身ともに成長した3人は「出会った人たちへの感謝の気持ちで臨みたい」と、ワンチームを超えた〝ワンファミリー〟で最後の夏に挑む。

 

(左から)笠松、田村、下和田選手