職人魂が光る 笹一の「冷凍すし」人気
1975年創業の老舗すし店、㈱笹一(和歌山市梶取)が販売する「冷凍すし」が人気を集めている。コロナ禍の内食需要の増加も後押しし、百貨店やオンラインでの販売が好調。同社の堀口徹代表取締役(71)は「冷凍なのでフードロスが生まれず、今の時代に合っている。職人の技が詰まったすしを多くの人に届けたい」と話している。
10代の頃から、すし職人の道を歩んできた堀口代表が冷凍すしに取り組んだのは、県優良県産品(プレミア和歌山)にも認定されている同社の「紀州あせ葉寿司」がきっかけ。同商品はサバやタイ、サンマなどの魚をアセの葉で包んだ押しずしで、隠し味には南高梅が使用されており、梅の香りも楽しめる。
開発には、本物のアセの葉を使うことに加え、一口サイズの上品な包み方にこだわった。開ける時のワクワク感を楽しんでもらえるよう、わざと見えないように包む一方、ほどくと手がご飯に触れることなく食べられるように工夫を凝らした。試行錯誤を繰り返し、約10年の歳月をかけて2004年に完成。
その後、特許も取得し、06年には千葉の幕張で開催された展示会に初めて出品した。その際、常温販売で日持ちが数日と短かったことから冷凍を希望する声を多く受け、冷凍すしの開発をスタート。米が白蝋化する失敗が続き、2年間で2㌧トラック2台分ほどのすしを無駄にしてしまった経験が今につながっていると振り返る。
品質劣化しない高度な冷凍技術を開発し、09年に商品化した。同社の冷凍すしは、魚に負荷が掛かったり、米が乾燥したりしがちな電子レンジや流水による解凍作業は不要。ふんわりとラップをかけ自然解凍するだけで、まるで握りたてのような味わいになるのは、すし職人の成せる技だという。
現在では「紀州あせ葉寿司」だけでなく、同社が扱う全てのすしを冷凍販売している。販売開始当初、冷凍すしの受注数は2カ月で10件ほどだったが、現在は月500件に急増。歳暮や中元の時期、記念日などの祝い事がある際にはさらに受注が増えるという。一昨年には情報誌『BRUTUS(ブルータス)』の「お取り寄せグランプリ」で「蒸しずし部門」の頂点に立つなど、全国でも人気が高まっている。
冷凍技術の進歩により、冷凍すしが業界の職人不足を補ってくれるのではと、堀口代表は期待する。同社でも職人の高齢化が進み、職人の数自体が減少。技術力の維持や継承が難しくなる一方で、ホテルや旅館などでの需要は高いという。
機械化が進む現代社会で、和歌山で職人が一つひとつ手作りしたすしを「北海道のすし」「九州のすし」などとして、各都道府県で流通させることができるのも冷凍すしならではの魅力で、大きなチャンスと捉えている。堀口代表は「シャリの配合を変え、和歌山にいながら各都道府県に合ったすしを作りたい」と新たな目標を掲げ、職人魂を胸に日々挑戦を続けている。
堀口代表は、これらの「加工ずし」を和菓子のイメージと重ね、「きょうはきょうの味、明日は明日の味があり、熟成されていく味わいを楽しめる」といい、「香りを食して、味を食してもらいたい」と笑顔。「どこにもない、見たことのない紀州あせ葉寿司を県の手土産として持っていってもらえれば」と願っている。