やまゆり園事件に学ぶ 人権擁護の研修会
福祉の現場で働く職員に人権擁護、虐待防止について学んでもらおうと20日、和歌山市北出島の県勤労福祉会館で研修会が行われ、230人が参加した。主催は同市の麦の郷障害者地域リハビリテーション研究所。「障害者福祉現場と人権~やまゆり園事件から考える~」をテーマに、東京都立大学人文科学研究科の矢嶋里絵教授が講演した。
会では主催者を代表し、社会福祉法人一麦会の山本耕平理事長が「さまざまなところで障害者虐待、人権擁護に反する行為があったと報道され、福祉現場において障害者と家族の人権、生活をどう守っていくのかが強く問われている。きょうはみんなで一緒に学び、考えていきたい」とあいさつ。
やまゆり園事件は2016年に神奈川県相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた殺傷事件。同施設の元職員が入所者19人を殺害、入所者・職員26人に重軽傷を負わせた。犯人は犯行動機について「障害者に使われていた金が他に使えるようになり世界平和につながる」などの自説を供述し、世間に衝撃を与えた。
矢嶋教授は同事件を契機に障害者の人権を保障するための法的課題とは何かを探ることを目的とし、共同研究グループをつくり、同園利用者家族、県、同園職員などに聞き取り調査を行ってきた。
講演では矢嶋教授が、やまゆり事件について振り返り、知的障害のある人と家族の人権について話した。
矢嶋教授は、事件で長男が犠牲になった家族について、事件直後は「これで周りの人に頭を下げずに済む」と安堵(あんど)感が大きかったが、何年かたつと悼んでくれる人が大勢いることを知ったエピソードを紹介。障害のある子を育てている親が、子育てを嫌に思わず安心して暮らせる社会になってほしいと願っていたことを伝えた。
知的障害のある人と家族の生活実態は、親との同居率が高く、年齢が上がっても家族への経済的な依存が低下しにくいなどの問題点があることや、家族支援に取り組み始めた国の現状と課題を説明。知的障害者が家族に依存せず、自らの意思で地域で暮らすために法はどうあるべきか、なぜ日本では実現しにくいのかについて解説。「障害者に対し、『われわれの税金でメシ食ってるんだろう』と批判する人もいる。障害のある人の生存権、社会保障の権利についての理解が一般に浸透していないことが大きな問題。変えていかなければならない」と訴えた。
障害者施設の支援員らは「利用者に接している自分たちと、社会の障害者に対する目線の温度差を感じた。時間がかかる問題かもしれないが、法律を作る人と現場はかけ離れているようなので、もっと現場を見てほしい」と話していた。