伝統野菜「源五兵衛」のこれから
前号では、和歌山の伝統野菜「源五兵衛(げんごべい)」を使った鳥取の名産品「とまり漬け」を取り上げた。今週は、伝統野菜を次世代に伝えていく、持続可能な農業について考えたい。
江戸時代から布引地区で栽培が始まった源五兵衛であるが、現在は、松江地区が主な栽培地となっている。栽培面積は約2㌶で、生産量は100㌧程度とされる。一般に流通する機会は無く、漬物業者への出荷が確約された契約栽培。収穫されたものは農家の手で1次加工された後、県外へ出荷される。
県外で粕漬にされた加工品が再び県内のスーパーなどの店頭で見かけることはまれで、和歌山市の伝統野菜であることを知る方は少ない。市場に並ぶことがなく認知度は低いものの契約栽培という形式で細々と生産が続くのは、経済的持続性が成立しているから。
市場に出荷するだけでは採算性が取れないが、生産・製造(加工)・小売りを地域で一貫して行う、いわゆる6次産業化により付加価値を高めることで採算を確保し、経済的持続性が成り立つケースはある。
源五兵衛は、生産と製造(加工)の一部を農家が行い、製造の残工程と小売は県外の業者が担い、粕漬(奈良漬)として、漬物が有名な他地域のブランド品として認知され、さり気なく、和歌山の伝統野菜として、持続可能な立ち位置を確立している珍しい事例である。
とまり漬けは、粕漬としての価値への限界という、地域の危機感から生まれ、新たな味として定着。そこには、農作物をいかに価値あるものに変化させるかという創意工夫の上に成し得たもの。
和歌山産の源五兵衛も、地域を跨いで生産と加工のプロフェッショナルが連携し、新たな価値を提供し続けることが、伝統野菜を次世代につなぐ、持続可能な農業の大きな鍵になりそうだ。(次田尚弘/和歌山市)