客席ごとタイムスリップを 安田監督インタビュー

農機を運転する安田監督(本人提供)
農機を運転する安田監督(本人提供)

和歌山城ホールでの「侍タイムスリッパー」上映会を前に、安田淳一監督は本紙のインタビューに応じ、製作の舞台裏などを語った。



――自主制作の作品が日本アカデミー賞など数々の受賞に輝いた。どう受け止めているか。

とにかく面白くなるように、お客さんが喜んでくれるようにということだけ考えて作ってきました。賞のことは一切考えておらず、思いも寄らなかったので、うれしいと同時に、すごく驚いているというのが正直なところです。



――どんなところが観衆に受け入れられたと感じるか。

基本的に嫌な人は出てこず、万人に受け入れられることを目指して作ったのが良かったのかもしれませんし、昨今は見なくなったチャンバラ時代劇のオマージュが全編にわたってあり、懐かしい気持ちになってもらえるところもありつつ、若い人には初めて見るような感じが受けたんじゃないかなとは思うんですけど、こればかりは、よく分からないですね。



――なぜ時代劇を題材に選んだのか。

初めから狙っていたわけではなく、時代劇映画の企画のコンテストに応募するためにプロットを書き、落選しましたが、すごく面白いという確信があったので、企業回りをして何社か協力の話もあったのですが、コロナに突入し、企業も映画どころじゃないと。そんな中、東映京都撮影所のプロデューサーから、脚本が面白いから何とかしてやりたいというお話があり、そのプロデューサーは退職を迎える年だったので、その時しか撮れるチャンスはないということで、「やります」と、なし崩し的に突入していきました。



――時代劇は昔から好きだったのか。

僕らの世代の共通の思いとして、時代劇は好き嫌い関係なく、身近にあった当たり前のものでしたから、昨今それがもう見られないことに対する寂しい思いを抱えていましたし、今の若い人たちに、昔ながらの楽しい時代劇で、江戸の庶民の気持ちとか、江戸時代を身近に感じていただけたら、とは思っていました。



――作中の立ち合いは緊迫感がすごかった。シーンへのこだわりは。

黒澤明監督の「椿三十郎」のオマージュになっているのですが、やる以上はそれを超えるような展開を見せないと、あまりやる意味もない。誰もドキドキから逃れられないシーンなんです。なぜかというと、「椿三十郎」を見ていないお客さんには普通にドキドキを味わっていただけるし、知っている人にとっては、普段の映画では一太刀で血がドバーっと出て死んでしまうみたいな感じなので、そうなってしまうのかというところで、やっぱりドキドキするんですよ。僕としては、この映画をきっかけに、昔のテレビ時代劇や、黒澤監督をはじめとする優れた時代劇の映画を見てみようと思っていただければいいなと。



――出演の俳優陣への思いは。

山口馬木也さん、冨家ノリマサさん、ほぼ全員の役者さんが、この映画をなんとかちゃんと形にしたいという思いがすごく強くて、前向きにやっていただいたと思います。特に山口さんと冨家さんは、普段商業作品やテレビとかにも出ておられる方たちなので、いろんな心配はあったのですが、インディーズ映画、自主映画ということをちょっと軽く見たりするようなことは一切なく、ものすごい真摯(しんし)に、真剣に、度が過ぎるぐらいの思い入れを強く持ってやっていただいたことに、本当に感謝しています。



――和歌山の観衆にメッセージを。

上映中に笑い声が聞こえてきたり、最後は拍手が起こったり、劇場の雰囲気が昭和の映画館みたいな感じというか、客席ごとタイムスリップできるような、そんな雰囲気を味わえる映画になっている感じはします。ぜひ体験してください。