養護施設の子に20歳の記念を 坂口さんが協力呼びかけ

児童養護施設の子どもたちに、成人式(20歳の集い)の記念に晴れ着を身に着けて写真を撮影する機会を提供する支援を、和歌山市出身で児童養護施設で生活した経験がある坂口真紀さん(40)=大阪府富田林市=が行っている。10月中旬に予定している事前の撮影、来年の式当日に向け、着なくなった着物などの提供、着付けやヘアセットへの協力者を募っている。
坂口さんは小学生時代に和歌山市の旭学園で暮らし、後に保育士の資格を取得して同学園に職員として就職。自身の生活と、後輩たちの支援や相談に取り組んできた両方の経験を持つ。
児童養護施設は、保護者がいない、虐待を受けたなど何らかの理由で家庭で生活できなくなった子どもたちが暮らす場所。施設では、さまざまな援助を受けながら子どもたちは安心して暮らせる一方、坂口さんは「虐待の防止など〝入り口〟の支援に焦点が当てられがちだが、子どもたちの人生は施設を出た後も続いていく。その後のサポートを充実しないといけない」と強く感じている。
身につかない習慣 孤立や生活破綻も
施設の子どもたちは、誰もが当たり前に思いがちな家庭という基盤を持っていない。家庭があれば知らず知らずに身についていくような生活習慣、社会のルールなどが分からないまま、自立した後に職場や暮らしのさまざまな場面で悩み、生活を破綻させてしまうことも少なくないという。
例えば、冠婚葬祭のマナーを知らず、相談できる親がいない、親がいても頼ることができないと、香典を祝儀袋で出してしまうようなことがある。「そんなことも知らないのか」と言われ、余計に周囲に相談できなくなり、一つひとつは小さいかもしれない同様の経験の積み重ねにより、対人関係を悪化させ、孤立してしまうこともある。
また、自由にお金が使えない施設での生活を終えた後、自分で生活費の配分や節約などの管理ができず、相談することもできないまま借金を繰り返し、多重債務を抱えてしまう人もいる。会社の健康保険に加入後も、国民健康保険料を支払い続けてしまっていた例もある。
身近な相談者必要 つながりづくりを
こうした事例を目の当たりにし、相談も多く受けてきた坂口さんは、施設出身者の背景を理解し、身近な質問や相談ができる大人とのつながりをつくることが大切と考えており、成人式の晴れ着と写真撮影の支援は、そのきっかけづくりを大きな目的の一つとしている。
支援は2016年に始め、これまでに和歌山市や奈良県の施設の子どもたち13人の晴れ姿を実現。一般家庭と変わらない、晴れ着を着る選択肢を提供するとともに、支援に関わるボランティアの人たちとの出会いの場となってきた。
ことしの支援に向け、着なくなった着物や髪飾りなどの小物の提供と、着物の着付けやヘアセットの技術を持ち、当日ボランティアができる人の協力を呼びかけている。
坂口さんは、旭学園職員の後、大阪での介護の仕事で出会った人たちの縁から富田林市議会議員選挙で当選し、現在2期目を務めている。同市やふるさと和歌山の子どもたちの支援拡充のために力を注ぐ日々を送る。
「子どもたちは自己責任の名の下、身に降りかかる全ての課題を自分で解決しなければならないのが現状。私はたまたま運が良かったが、運に左右されないような支援体制をつくっていきたい。着付け支援から始まる新たなつながりで、子どもたちの未来の安心につなげたい」
問い合わせは坂口さん(℡090・5367・5345、メールslopemouth0719@outlook.jp)。