AI時代の職業需要の変化 エッセンシャルワークの必要性

「AI猛進の米国、若者の働き口に異変」との記事が日経新聞にありました。「2025年春は配管工や大工などの技術を習得する職業訓練校の入学者数が前年から12%増えた。伸びは大学入学者の4%増を大きく上回る」一方、「ソフトウエア開発の分野で22歳から25歳の雇用が、22年後半のピーク時から約22%減ったとの試算を示した」とのことです。さらに「調査では『大学の学位があれば長期的な雇用安定が保障される』と答えた割合が16%にとどまり、77%が『自動化されにくい仕事』を選ぶことが重要と指摘した」とされています。そして実際、米国では修理を行う技能工の報酬は、非常に高額になっていることが報告されています。

この数年、多くの仕事がAIにより失われるとの懸念や不安が指摘されてきました。しかし、実際に進展する中で、AIやロボットで効率化は大いに進んでも、人の仕事が代替されるように簡単にはならないことも、徐々に明らかになってきました。

AI研究者の今井翔太氏は、「AI登場以来『特別なスキルを必要としない賃金が低い仕事であるほど、コンピュータやAIによる自動化の影響を受ける可能性が高い』とされてきましたが、生成AIが登場したことで、『高学歴で高いスキルを身につけている者がつくような賃金の高い仕事であるほど、コンピュータやAIによる自動化の影響を受ける可能性が高い』」と指摘しています。さらに「影響を受けにくいとされる職業は、ほとんど手足を動かす肉体労働を行うもの、いわゆるブルーカラーと呼ばれる職種です。一方で影響を受けやすいとされる職業は、エンジニアや研究者、デザイナーなど高度な判断力や創造的な思考が必要とされるもの、いわゆるホワイトカラーと呼ばれる職種」と具体的に挙げています。

こうした指摘を踏まえ、あらためて今後の地域インフラや経済の維持に必要な職種を考えると、AIやロボットで効率化はできても全てを代替できない職種が多くあります。まず思い浮かぶのは、農林水産業です。とくに中山間地での果樹農業などは、ほとんどの作業が人手でなければ成り立たないと思います。さらに道路・橋梁・上下水道なども、建設や維持管理の効率化はできても、実際の現場での作業や修繕、交換などは人手が不可欠です。介護や福祉における対人ケア・身体介助・情緒対応、教育や保育など子育て分野、さらに物流やラストワンマイルでの配送など、人手が必要な仕事は山のようにあります。

このように、AI時代における職業というと最先端の職種が耳目を集めますが、いわゆるエッセンシャルワークと呼ばれる地域のインフラや経済を支える多くの仕事もまた、AI時代においても需要のある仕事であることがわかります。AIやロボットなどで生産性を高めるとともに、人手によって支えていくのだと思われます。

これからの人口減少時代では、地域社会を維持・発展させるためにも、世界に伍して先端技術を磨く一方、エッセンシャルワークを担う人材の養成が欠かせません。このことから失われる職、求められる職のミスマッチを避けるため、高校や大学など進学先の選択も変わっていくでしょう。そして、今後これらの人々の必要性と価値が一段と高まって、中間層として安定した生活ができる状況を作り上げていくことが、社会の安定のために極めて重要です。