貴志川線存続へ上下分離 和歌山電鐵と県など合意

合意書を手に(左から)岸本市長、小嶋社長、宮﨑知事、尾花市長
合意書を手に(左から)岸本市長、小嶋社長、宮﨑知事、尾花市長

赤字が続いている和歌山電鐵貴志川線の存続に向け、同社と県、沿線の和歌山市、紀の川市の4者は24日、行政が線路などの鉄道設備を保有し、同社が運行する公設民営の「完全上下分離方式」への移行を目指す合意書を締結した。設備を保有する受け皿や3自治体の負担の在り方などは4者で協議する。2028年4月の移行を予定し、その後3年程度で黒字転換を図る。

貴志川線は06年度に南海電鉄から和歌山電鐵が運行を引き継ぎ、県と両市が財政支援を続けてきた。16年度からの10年間は、設備の維持管理や改修を対象に、支援の上限を当初は12億4790万円としていたが、コロナ禍による利用者減少や物価高騰による経費上昇などで追加支援が必要となり、24年度までの支援額はすでに18億1480万円に膨らんでいる。

今後も老朽化に伴う施設の更新に多額の費用を要し、現在の「みなし上下分離方式」による運行では存続が困難とみられるため、今回の合意に至った。完全上下分離方式になれば自治体側の負担は大きくなるものの、和歌山電鐵は運行に専念することで黒字転換が見込まれ、沿線開発などを行う余裕にもつながり、長期的に沿線地域の経済的な活性化も期待されるという。

4者による今後10年間の試算では、みなし上下分離を続けた場合は2億8000万円の赤字が発生する一方、完全上下分離になれば4億7000万円の黒字が見込まれる。

4者は今後、行政側が保有する鉄道設備の範囲、設備を保有する受け皿となる組織の在り方、3自治体の負担割合などを検討し、完全上下分離方式への移行に必要な手続きの準備などを進める。

締結式は県庁で実施。和歌山電鐵の小嶋光信社長が、20日に永眠した同線の猫駅長ニタマをデザインしたボールペンを用意し、宮﨑泉知事、尾花正啓和歌山市長、岸本健紀の川市長に手渡し、4人が合意書に署名した。

小嶋社長は、完全上下分離方式により公・民の責任が明確になることが重要と強調し、「赤字補填に頼るのではなく、経営努力をすれば地域交通を黒字にできるという挑戦をしていく」と述べた。

さらに、厳しい現状にある全国の地域交通を持続可能にするため、道路運送法の改正や、ガソリン税・軽油引取税の暫定税率廃止後の財源として「環境交通目的税」の創設を目指す運動をするとし、「制度要求までしていくところに貴志川線の価値がある」とも話した。

岸本市長は「市民の生活を守るため、貴志川線は存続させなければいけない」、尾花市長は「人口減少の中で、沿線の人口密度や利便性を高めていくことも大事だ」とし、宮﨑知事は「地域でしっかり鉄道を支え、活力あるまちづくりを進めたい」と述べた。