無添加「5年保存パン」 紀の川市のサクセムが開発

ライフブレッドを手に笑顔の中里社長
ライフブレッドを手に笑顔の中里社長


災害時の備えとしてだけでなく、世界の食糧難を救う切り札に――。賞味期限の常識を覆す無添加の5年保存できるパンが、和歌山県紀の川市で生まれた。北長田のサクセム㈱(中里輝茂代表取締役社長)が手掛ける「ライフブレッド」は、保存料に頼らない長期保存を実現。完全無添加や植物由来の原料にこだわり抜いたその革新的なものづくりは、国内外の現場から大きな注目を浴びている。

開発の原点は、20年近く前にさかのぼる。農産加工から洋菓子製造までさまざまな現場で培った確かな技術と経験を持つ中里社長(82)は、海外の食糧支援では従来の保存食が輸送や検疫の厳しさから現地に届くまで1年以上かかることも少なくないことに着目。賞味期限切れで配給できない現実を知り「世界中の誰もが食べられ、長く保存できるものが必要」と直感し、ライフブレッドの開発を決意した。

パンは水分と酸化のコントロールが極めて難しく、試行錯誤に約10年を費やした。さらに保存料や着色料を一切使わない完全無添加かつ植物由来の原料にとことんこだわることで、さらに10年の歳月を要した。

北海道産100%の小麦粉を使い、少なめの水で練った生地に食用なたね油を多めに加えてイースト菌を発酵させる独自の技法により、食中毒菌が繁殖できない水分活性値0・8未満を実現。

さらに、バリア性の高い4層のアルミパウチ袋で密閉することで、保存料に頼らず高湿度下でも長期にわたって品質と安全性を保持することに成功した。

卵や牛乳を使用しておらず、保存料、着色料なども不使用で、宗教上の戒律にかかわることもないのが最大の強みだという。

1個110㌘で、600円(税別)。1個で、タンパク質9・0㌘、501㌔㌍のエネルギーを摂取できる。

無添加の5年保存できるパン
無添加の5年保存できるパン

ことし2月にはイスラム教の「ハラール認証」を取得し、昨年3月には日本災害食認証も受けている。

これまでに被災地や新型コロナウイルス対応の医療現場などに無償提供を行ってきたこともあり、行政や自衛隊などの備蓄食としても数十万本の納入実績を持つ。今回の熊本地震の被災地に対しても、現地へ向けた寄付や支援を届けるべく準備を進めている。  

今後はチョコレートや練乳などのフレーバー展開に加え、家庭でのローリングストックなどでもより手に取りやすいよう、サイズを見直して半額程度で販売できるような製品開発も進めている。

また、同社の紀の川市の工場では、チーズケーキやチョコレートケーキなども日々1万5000個ほど製造しており、その高い技術力から全国のホテルや生協、大手飲食チェーン向けなどに広く展開している。そこで培われた確かな洋菓子の製造技術や妥協のないものづくりの基盤こそが、今回の画期的な5年保存パンの誕生を支える大きな原動力となっている。

「人がやれないことにチャレンジしたい」と意気込む中里社長は、「災害や食糧難に苦しむ世界中の人に、安全でおいしいパンを届けたい。今後は農業分野への参画も視野に入れ、地域から新しい挑戦を続けていきたい」と笑顔で話している。