忠犬ハチ公が思い出される 貴志駅のスーパー駅長を訪ねて
東京からお一人で和歌山にお越しの老紳士にマッサージさせていただきました。
奥様に先立たれてから全国47都道府県の県庁所在地を巡る旅を思い立たれ、 もう成し遂げたかと確認してみると、 和歌山市だけまだ訪問していなかったと気付かれたのだそうです。
わが故郷はそれほど影が薄いのかと少し残念な思いもありますが、 都会の住人の目から見れば、 それが実態なのかもしれません。
それでもちゃんと下調べをして来られたようで、 「明日は和歌山城と紀三井寺を見て回り、 和歌山電鐵のたま駅長にごあいさつしようと思っています」 とおっしゃる。 そして興味深いお話を聞かせてくださいました。
「私の自慢は、 忠犬ハチ公の背中をなでたことがあることなのです。 私が小学校に上がったばかりの昭和10年頃のことです。 新聞に 『すでに亡くなった飼い主を、 渋谷駅で待ち続ける忠義な秋田犬ハチ』 と報道され、 すっかり有名になっていました。 私の自宅が渋谷なものですから」
渋谷駅の忠犬ハチ公をなでた手が、 70余年の年月を経て、 明日は貴志駅のスーパー駅長の頭をなでることになるかもしれないなと、 楽しい想像を巡らせながら、 60分のマッサージを終えました。
(宮本年起/和歌山)