自然と文化が息づく世界  「古座川の一枚岩」

 前号から、紀南の魅力的な川の歴史と文化について取り上げている。今週は古座川町の「一枚岩」を紹介したい。

 「一枚岩」は古座川町役場から北西へ約10㌔。古座川の本流沿いを走る県道38号を西へ進み、突き当たる国道371号を北上すると巨大な岩が見えてくる。高さ100㍍、幅500㍍の大岩壁で、熊野カルデラ火山の地下深くのマグマから形成され、地上に現れた岩石が風化・浸食されたことにより、このような形になったという。昭和16年「古座川の一枚岩」として国指定天然記念物に指定されている。

 一枚岩にも古くから伝わる伝説がある。その昔、岩が好物の魔物がおり、岩を食い荒らしながら古座川をさかのぼってきたという。一枚岩にたどり着いた魔物が一枚岩を食べようとかみ付いた時、里に住む猟犬が魔物に襲い掛かり追い払ったところ、一枚岩だけは穴だらけにならずに済んだ。魔物がかみ付いたとされる部分という岩の中央部には滝が流れ、それが魔物の歯型と悔し涙として現代に残るという話だ。同じ古座川沿いにある「虫喰岩」や「牡丹岩」は風雨で岩肌が浸食され、無数の穴が開いているのが特徴。一枚岩だけは滑らかな岩肌であり、この伝説の由縁が理解できる。また、4月19日と8月25日の前後数日間は、夕日を受けて「守り犬」の影が一枚岩に浮かび上がるという。

 他にも一枚岩の岩面に生える「ヘリトリゴケ」というコケの群生が国内最大でかつ、最長寿命であり世界的に注目されるものであるという。紀伊半島の生い立ちを物語る貴重な地質遺産の一つとして、平成21年に県内で唯一の「日本の地質百選」に選定。自然と文化が息づく神秘の世界がここにある。
   (次田尚弘/和歌山)