しょうゆ文化が息づく街 千葉県銚子市
前号では、千葉と和歌山に共通する地名が、黒潮を通じた結び付きに由来することを取り上げた。共通の地名が多い館山市や勝浦市から北上したところに銚子市がある。特にここは和歌山からの移住者が多い地域。今週は、銚子に根付く和歌山から伝来した文化や歴史を紹介したい。
銚子市は千葉県北東部、関東平野の最東端に位置し、利根川を挟んで茨城県に隣接する人口約6万5000人の市。利根川の河口近くには「犬吠崎」があり、ご存知の方も多いだろう。利根川水運を生かし、古くから漁業やしょうゆの醸造業で栄えてきた。
とりわけしょうゆの醸造業においては、国内のしょうゆ生産量の15%以上を占める生産地で、大手しょうゆメーカーの工場が存在する。この地域でしょうゆの醸造が始まったのは1600年代の半ば。しょうゆの発祥地である和歌山から伝わった文化だ。
温暖多湿で四季の気温差が少ないという気候が、しょうゆ造りに欠かせない麹や酵母などの微生物の生育に適しており、また、大豆や小麦などの原材料を入手しやすい土地で、一大商圏となっていた江戸への輸送路(水運)があったことが魅力となり、和歌山のしょうゆ文化や技術を持って、銚子へ移住した和歌山県民が多く存在した。現在も先祖に和歌山県出身者を持つ市民が多いという。
銚子のしょうゆ文化が世に知られるようになるきっかけを作ったのが「ぬれせんべい」だ。濃厚なしょうゆをふんだんに染み込ませた独特の菓子だ。今から10年ほど前、資金不足に陥っていた地元の鉄道会社が、資金調達の一つとして「ぬれせんべい」の販売を始めたことがネットで広まり、たちまち有名になった。現在ではこの地域の土産品として定着。和歌山で生まれたしょうゆ文化が、いまもなお息づいている。
(次田尚弘/千葉)