難病の娘と母が絵画展 ギャラリー龍門で

有田川町の楠部千鶴さん(67)と母親の野村矩代(つねよ)さん(93)の絵画展「母娘展」が16日まで、和歌山市のホテルアバローム紀の国ギャラリー龍門で開かれている。母娘展は、千鶴さんが難病を患ったことで一度は中止になり、絵画仲間の後押しで2年越しに実現。千鶴さんは「感慨無量。支えてくださった皆さんに感謝です。2人とも残された時間は短いですが、生きてきた証しを見てもらいたい」と話している。

展覧会のきっかけは2年前の春、千鶴さんが部屋を整理していた際に、矩代さんが描いたアジサイとチューリップの2枚の水墨画を見つけたこと。「決して上手とは言えませんが、とてもすがすがしかったんです」と千鶴さん。矩代さんは50歳ごろから俳画を習い、色鉛筆画や絵手紙の作品などを40年にわたって描きためていた。

千鶴さんも55歳から絵を始めた。「母の作品をたくさんの人に見てもらいたい」と、千鶴さんが通う和歌山市の絵画教室「Ra―kuの会」の講師、尾崎功さん(73)に、母と娘の2人展をできないかと相談。当日に向けて準備を進めていた。

そんな矢先、千鶴さんは膠原病(こうげんびょう)からの間質性肺炎を患い入院。予定されていた展覧会はやむなく中止に。そして今回も、展覧会を前に風邪をこじらせ肺高血圧症を併発。常に酸素吸入器が必要な状態になった。

中止も考えたが、教室の仲間が「もし会場に来られなくても、教室のみんなでやるから安心して」と激励。家族や親せきなど、周囲の全面サポートで展覧会が実現した。

尾崎さんは「楠部さんはとても意欲的で、生きていることを大事にされている方。作品の色合いや空気感にも気持ちが表れています。『元気になってもらいたい』との思いで、展覧会を実現させたかった」と話す。

今展には、千鶴さんの色鉛筆やパステル、油彩、矩代さんの水墨画や掛け軸、絵手紙など約70点を展示。矩代さんの米寿の祝いで一緒に訪れた近江八幡の風景や、大病を患ってから描いた、だんじりの風景も並ぶ。

千鶴さんは「一つひとつ、描いた当時の思いがめぐってきます。こうして見ると、やっぱり母のキャリアには勝てないですね。さすが母」とほほ笑んだ。会期中には、現在は奈良市の高齢者療養施設で生活している矩代さんも来場予定という。

千鶴さんは川柳も趣味の一つ。新聞の川柳欄の常連で、病床でも作品を詠んできた。「母娘展心配無用力貸す」「まだ生きよ大きな力働きぬ」――。

千鶴さんは「この一つの大きな山を越えたら、元気になれるかなと思います。皆さんに励ましをいただいて、今は少し休んでいる絵をまた描きたいなという気持ちです」と笑顔で話している。

午前10時から午後5時(最終日は4時)まで。

矩代さんの水墨画を手に、ほほ笑む千鶴さん

矩代さんの水墨画を手に、ほほ笑む千鶴さん