ブラジルに息づく箏の音色 日本大使館で演奏会

前回に続き、世界中に箏の魅力を発信しようと活躍されている、和歌山市出身の箏曲家・西陽子さんによる、ブラジルからのリポートです。(次田尚弘)

お弟子さんの一人、山田裕子さんとブラジルで再会したのは、ちょうど2年前。和歌山から出たことのなかった彼女が、JICAボランティアとして箏の指導にあたるため、アマゾン川河口の町・ベレンに飛び出しました。ベレンは日系ブラジル人が移民初期に入植した地の一つであり、今でも多くの日系人の方々が住んでいます。

驚くことに、遠く離れたアマゾンのその町には、箏を守り続ける方々が今でもいらっしゃいます。ベレンの人たちの憧れの市民劇場はオペラハウスのように素敵なホールで、皆さんと共に演奏したコンサートは私にとって一生忘れることのできない素晴らしい感動の瞬間でした。

日本大使館で演奏会を開いた時は、偶然にもベレンでご一緒した方にも再会しましたし、サンパウロではもはや家族のようになった箏の先生方や生徒さんたちとワークショップを含めた交流会が開かれました。

ブラジルまで往復4日。楽器を含め引っ越しさながらの大荷物。多くの方々のご協力なしには実現できない演奏旅行。それでもやっぱり行きたい!

ブラジルの大地にいると、その深き緑に刻まれし日系人の方々の夢や希望が見えてくるような気がします。日系人の歴史は辛苦の歴史です。邦楽界の常識である流派の壁などたやすく越えてしまう心の広さ、自分のなすべきことを身じろぎもせず行う胆力、そして温かく朗らかな笑顔。日本人の美しさと強さはここに今もあって、私はいつも勇気づけられます。尊敬と感謝…。

箏の音が、過去と未来、国と国、人の思いや夢、そして祈りをつないでいけるように私もまたひたむきに音楽に向かっていきたいと思いました。

多くの日系人の前で演奏(ブラジル日本大使館)

多くの日系人の前で演奏(ブラジル日本大使館)

 

(西陽子/ブラジル)