伊勢路旅⑧三重県熊野市(4)

前号では、三重県熊野市の世界遺産・花の窟(はなのいわや)神社の自然崇拝の文化についてふれた。今週は花の窟神社の程近くにある「獅子(しし)岩」とその歴史を紹介したい。

獅子岩は国道42号沿いの七里御浜にある岩山。高さ約25㍍、周囲約210㍍の奇岩で、地盤の隆起と波の浸食により、岩山の上部が熊野灘へ向かう獅子のように見えるのが特徴。国の名勝、天然記念物に指定、世界遺産に登録されている。

獅子岩は、ここから北西へ約5㌔のところにある大馬(おおま)神社の「狛犬」としての役割を持つ。平安時代の武官、坂上田村麻呂(758―811)が、熊野灘で悪さを働いていた海賊を討ち、その首を埋め、その上に社殿を建てたのが始まりと、紀伊風土記に記されている。

坂上田村麻呂の愛馬を一緒に埋めたことから、あるいは、大きな悪魔を討った社という意が、神社の由来といわれている。海にまつわるそれらの由縁から、獅子岩が社の狛犬と位置付けられ、現在も境内に狛犬が存在しない。これもまた、自然崇拝の一つといえるだろう。

獅子岩は写真の愛好家にも人気のスポット。獅子の鋭い口が光輝くように見える、夕日をバックにした写真は絶好のシャッターポイント。また、毎年8月17日に行われる全国的にも有名な熊野大花火大会では、岩をバックに打ち上がる無数の花火が獅子を浮かび上がらせるさまは、年に1度だけ観る者を魅了する特別なもの。

獅子岩へのアクセスはJR紀勢本線・熊野市駅から新宮方面へ国道42号沿いに徒歩約10分。駐車場もあり。
自然と文化が一体となった歴史が息づく熊野市の魅力にふれてみてほしい。

世界遺産登録されている「獅子岩」

世界遺産登録されている「獅子岩」

(次田尚弘/熊野市)