伊勢路旅(23)三重県多気郡大台町(2)
前号では「三重県多気(たき)郡大台(おおだい)町」で収穫される「伊勢茶」について取り上げた。今週はコクと香りが濃厚な伊勢茶と相性がぴったりの郷土料理を紹介したい。
その郷土料理の名は「ないしょ餅」。地元で採れたヨモギ、もち米、うるち米を原材料にしたヨモギ餅で、中にはあんが入っており、餅の上にはきな粉がまぶされている。
ユニークな名の由来は地域の文化に関係する。この地域では何かおめでたいことがあった際にきねと臼を使い、餅をつき、近所に配ってまわる習わしがある。しかし、日常生活のなかで餅を食べたいとき、たいそうに餅をつくと近所の方々に目立ってしまう。そのため屋内でこっそりと、周囲には内緒で餅を作る方法が家庭に広まったという。
作り方もユニークだ。炊きあがったもち米を鍋に入れ、麺棒を使ってついていくというもの。確かに周囲に知られることなくこっそりと作れる。
近年になって、町の中央を流れる三重県内で最長の河川「宮川」の河原に自生するヨモギや、中流域で盛んな農村地帯で生産される米を活用し、地産地消の地域づくりを進めようと製造・販売が進められているという。
実際に町内で「ないしょ餅」を購入し食べてみた。ユニークな製造方法であるために米粒があちこちに残っており、餅というよりも、おはぎに近い食感。甘すぎずよもぎの風味が広がるのが特徴で、伊勢茶との相性がすごく良いと感じた。
「ないしょ餅」は町内の道の駅などで販売されているが、人気が高く売り切れることもあるという。筆者としては、こんなにおいしい餅の存在を内緒にしておきたいところだが、ぜひ、大台町ならではの文化や特産品の数々にふれてみてほしい。
(次田尚弘/大台町)