高齢社会をどう生きるか 五木寛之さん講演

 県青年僧の会の文化講演会が15日、和歌山市民会館で開かれ、作家の五木寛之さん(84)が「いまを生きる力」と題して、高齢化社会を活力を持って生きるための在り方などを語り、県内外から訪れた約1400人が聴き入った。

 同会は20歳から50歳未満の県内の僧侶で構成し、著名人を招いての毎年の文化講演会は26回目。県仏教会、市仏教会が後援した。

 五木さんは福岡県に生まれ、戦後は朝鮮半島からの引き揚げを体験。『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞、『青春の門』で吉川英治文学賞を受賞し、小説の執筆の他、幅広く批評活動も行っている。

 講演で五木さんは、日本の大きな問題として高齢化の著しい進行を挙げ、団塊の世代が後期高齢者に近づく中、早期に解決策を見いだして世界のモデルにならなければいけないと話した。

 社会問題となっている認知症については、仏教の「しゃべれしゃべれ」という言葉を紹介し、「昔のことを思い出して語らせ、初めて聴くような顔で聴くことが重要」と話し、回想療法が効果的とアドバイスした。

 平均寿命が男女共に80歳を超える中、五木さんは高齢期の過ごし方に言及。1900年当時の平均寿命がイギリスは45歳、日本は43歳だったデータを示し、「当時は人生について深く考えるのは若い人だったが、今は高齢者だ」と強調。老後の健康な生活に向けて、偏頭痛を克服した自身の体験を紹介し、「まぶたの下がりや唾液の粘りけなど、体の予兆を素直に聞くようにしたことで克服した」と語った。ねんざや骨折につながる可能性が高い転倒には特に気を付けていることも話した。

 戦後70年が過ぎ、「国にも一生やサイクルがあり、そうして時代は進む。その中で自分がどこにいるか見定めることが大事」と話した上で、「創始者が亡くなった年齢と宗教の性格は重なる気がしている」として、キリスト教は青年期、イスラム教は壮年期、仏教は成熟期の宗教ではないかとの私見を披露。「高齢期は自己嫌悪と人間不信に陥りがち。どう生きるかを考える上で仏教が大きな力になるのではないか」と話した。

 大阪府から訪れた女性(65)は「五木さんの本はよく読んでいますが、講演を聴くのは初めてでした。五木さんの考え方や生き方に改めて共感しました」と話していた。

 会場では仏教についての相談コーナーや「釈迦誕生花まつり」も行われた。

講演する五木さん

講演する五木さん