地域に親しまれる理髪店57年 中井節子さん

半世紀を越えて地域に親しまれている和歌山市鷹匠町の理髪店「HAIR SPOT NAKAI」(中井隆也店長)では、創業57年を迎える今も、創業者の中井道弘さん(80)の妻・節子さん(81)が毎日店に立ち、笑顔で客を迎え、確かな技術でサービスを提供し続けている。

同店の創業は昭和35年4月16日で、節子さんが道弘さんと結婚したのもほぼ同じ時期。2人は同い年で23歳だった。

節子さんは教師を志望していたがかなわず、中学校を卒業後間もなく、故郷の伊都郡花園村梁瀬(現かつらぎ町)の農協で経理の職に就いた。思い描いていた仕事ではなかったが「熱心に頑張っていた」と節子さんは当時を振り返る。勤務を始めて6年が経過したころ、検査官が訪れ、節子さんが作成した帳簿を見て「あんた一人でやったんか!」と驚嘆したほどの質の高い仕事ぶりだった。

節子さんは17歳の時、県の歴史に残る大規模災害の一つ、有田川流域などに甚大な被害をもたらした昭和28年の「7・18水害」に遭遇した。壊滅状態の集落から九死に一生を得て避難し、その後の約2年間に及ぶ避難生活を母と共に力強く生き抜いた。

23歳で遠い親類にあたる道弘さんとの縁談が持ち上がり、結婚。「かまどがある古い造りの家での家事も大変な中、理容の仕事を一から覚えました」と話す節子さんは、9年間にわたり、店の休みにはカットの講習会に参加し、確かな技術を磨き続けた。

「勉強を重ねた結果、お客さんもついてくれるようになりました」。理髪店の経営は順調に進み、現在は息子、孫と共に店を守っている。

「センスも大切」と話す節子さんは、幼い頃から装いへの関心が高かった。裕福ではなかったが、器用だった母がいつも節子さんにかわいらしい衣服を整えてくれた。「母が作ってくれた防空頭巾は紫色で、顔を包む部分に刺しゅうが施されており、みんなにうらやましがられました」と懐かしむ。

節子さんは自身のさまざまな体験を折りにふれて来店客に話しながら、「息子や孫にも聞いてもらい、これまでの店の歩みを覚えていてほしい」とほほ笑む。

節子さんが心を込めてシャンプーや美顔マッサージを施す日々は、これからも続いていく。

笑顔で店に立つ中井さん

笑顔で店に立つ中井さん