能楽文化の裾野広げ ワークショップ10年目
10月8日に和歌山市和歌浦の片男波公園野外ステージで開かれる「第19回和歌の浦万葉薪能」に向け、1部で発表する市民の能楽ワークショップの稽古がスタートした。NPO法人和歌の浦万葉薪能の会(松本敬子代表)が平成20年から開き、現在は市などと共催する取り組みで10年目に入った。ワークショップをきっかけにプロと能舞台に立つ子、踊りが好きで毎年参加する子――。能ワークは着実に、能楽文化の裾野を広げている。
全6回の稽古初日となったこの日、市民会館の和室には足袋をはき、扇子を手に舞う子どもたちの姿があった。
経験者が多いため、1年のブランクを経ても、ひとたび稽古が始まれば、背筋を伸ばし立ち居振る舞いも堂々としたもの。
ワークショップは子どもたちに伝統文化を伝え、能文化の裾野を広げようと始まった。ことしは4歳から一般まで25人の申し込みがあり、このうち経験者は約6割。講師は初回から、同市の重要無形文化財保持者で、観世流能楽師の小林慶三さん(85)が務めている。市民がプロの能楽師に教わり、一般客を前に正式な舞台で成果を披露するのは全国的にも珍しい。
今では「日前宮薪能」でプロと共演する高校2年生の宮楠昂之さんも、小学校2年生でワークショップを体験。以来毎年参加し、子どもたちにアドバイスするなど、頼もしい〝お兄ちゃん〟のような存在。
稽古を終えた子どもたちは小林さんのもとへ行き、正座し「ありがとうございました」と丁寧におじぎ。能を始めることで子どもに変化が見られるといい、保護者からは「普段の生活で落ち着きがでてきた」「礼儀作法が身に付く」などの声が寄せられる。
初めは扇の持ち方すらおぼつかなかった子も少しずつ型を覚え、回を重ねるごとに上達。子どもだけでなく付き添いの親が興味を持ち、一緒に挑戦するケースもある。
「子どもたちは1年たっても、自然と稽古に入れ、大したもの。積み重ねが大事であるとつくづく感じます」と小林さん。
歴史と伝統のある能楽は、一朝一夕にできることではなく、同会の松本代表は「伝統的なものは奥深く、それだけに時間がかかるもの。普及という意味では、1度や2度ふれるだけでは忘れてしまいます。能を好きになって、長い間続けてくれることが大きな財産になり、伝統文化の種をまくのが大事だと感じています」と話している。
ことしも、子どもたちは「老松」や「玄象」「芦刈」など、習熟度に応じた演目の仕舞を、大人は謡曲「高砂」に挑戦する。
3年目のステージという智弁小学校1年の久保太一君は「踊りが大好き。一生懸命に頑張る」とにっこり。8年目になる高松小学校5年の岡田葵さんは「最初は難しかったけど、少しずつできるようになるのが楽しい。ことしは切れのある踊りが目標」と意気込んでいた。
万葉薪能は午後4時20分開演。喜多流能「花月」、大蔵流狂言「因幡堂(いなばどう)」が披露される。