家康紀行(38)今川氏の菩提寺「臨済寺」

 前号では駿府城ゆかりの大名をはじめ、静岡の人々の信仰があつく、家康が元服式を行ったとされる静岡浅間神社を取り上げた。
 今週は同社と同じ賎機山(しずはたやま)の山麓にあり、家康が今川氏の人質として預けられていた臨済寺(りんざいじ)を紹介したい。
 臨済寺は臨済宗の禅寺で今川氏の菩提寺。今川氏親(うじちか)が、出家したわが子(後の今川義元)のために、臨済宗の僧侶で今川氏の家臣であった太原雪斎(たいげんせっさい)を招き建立した善徳院が前身にあたる。今川義元の兄、氏輝(うじてる)が祭られ、その法名にちなみ臨済寺に改められたという。歴代の今川氏当主の位牌が安置され、桶狭間の戦いで戦死した今川義元の墓所でもある。
 家康(当時の竹千代)が今川氏の人質時代に教育を受けたとされ、武田信玄による駿府への侵略に伴い兵火を受けるも、その後に駿府を直轄とした家康により復興され、その際に再建された本堂は現存し国の重要文化財に指定。こけら葺きで正面十一軒半、奥行き八軒半と立派なたたずまいが特徴。現在も修行僧による修行が行われている。また、併設された庭園は国の名勝に指定されている。
 建物や庭園は今川義元の命日にあたる5月19日と、祈祷会が行われる10月15日の年二日のみ特別公開される。家康が手習いを受けたとされる部屋は、駿府城公園の巽櫓内に復元されたものがあり、特別公開以外でもその環境にふれることができる。
 賎機山の山麓にたたずむ静かで厳かなお寺。手習いを受け家康の礎を築いた学びの場がここにある。
(次田尚弘/静岡市)