濃密な熊野を感じて 照井壮平さん写真展
紀伊半島を四半世紀にわたって撮り続ける和歌山市の写真家、照井壮平さん(42)の写真展『狼煙(のろし)』が8月5日まで、和歌山市吉田の&Room(アンドルーム)で開かれている。昨年秋に自身初の写真集を出版し、県内での個展は約20年ぶり。熊野、大峯、高野山を駆け巡り、黒と白で熊野の濃密な自然を写し撮る照井さんは「皆さんがあまり見たことのないような、熊野の姿を伝えたい」と話している。
突き抜けるような青空に、清らかな水―。そんな誰もが熊野のイメージとして抱くような、「陽」の世界を写すことに、照井さんにはどこか違和感があった。
「晴れよりも、雨の方がずっと熊野らしい雰囲気がある。この怪しくも深く、吸い込まれるような世界を旅してみたい人もいるはず」と、25年間撮りためた作品の発表を決めた。
今展では、写真集未収録作品数点を含む、フィルム作品35点を展示。作品は、熊野古道の継桜王子で見上げた力強い一方杉、霧の中に浮かび上がる不穏な一本の木、熊野川の上空を悠々と舞うトンビなど。熊野が持つ荒々しさや自然界の営み、妖気漂う中にある美を写している。
20代の頃には、修験道の修行場だった大峯奥駈道を歩く山伏に同行。険しい山道を素足で踏みしめる男性、荒い息遣いが聞こえてきそうな、断崖絶壁から身を乗り出す荒行を追った写真も目を引く。
追求したのは、黒の階調。「限りなく黒に近い、底なし沼のような深いグレーは熊野ならでは」と照井さん。自ら「熊野グレー」と呼び、光や影の微妙なニュアンスを豊かな濃淡で表現している。
「人の暮らしは目まぐるしく変わったが、30年近く追い続ける熊野の風景は、太古の昔から変わらない。写真を見て、熊野に足を運びたいと思ってもらえればうれしい。ぜひ長く滞在して、夜の世界や早朝の雰囲気など、熊野の空気感を肌で感じてもらえれば」。
深遠な熊野は、どれだけ撮っても到達することはないという。「やっと片足を突っ込んだくらい。まだまだここからも撮り続けていきたい」と意欲的に話している。
午前11時から午後7時まで。水曜日休み。同じく写真家の父・照井四郎さんとの「写真家は紀伊半島を何故、撮るか」をテーマにした親子対談が4日午後3時から同所である。問い合わせは同店(℡073・422・4391)。