アシストスーツ量産へ 和大発ベンチャー

 装着することで、農業で働く人の体にかかる負担を減らそうと、和歌山大学名誉教授の八木栄一さん(69)が開発した「パワーアシストスーツ」が10月から量産化に向けて本格的に動き出す。重い荷物の上げ下ろしや中腰作業、傾斜地での歩行など農作業に必要な動作を想定して開発。現場での実証と改良を重ね、軽量化に成功した。農業だけでなく、介護や物流、建設など各方面からも大きな期待が寄せられている。

 アシストスーツは、リュックサックを背負うように服の上から装着して使う。重さは約4~5㌔と軽く、着脱も簡単だ。物を持ち上げようとすると、センサーが装着者の動きを予測。関節の角度やかかる力の変化を感知し、必要な力を左右のモーターが支援(アシスト)する。例えば20㌔の重さの荷物だと、5~10㌔の力で持ち上げられるという。防水機能も備えている。

 後継者不足から高齢化が進む農業の現場では、腰を患う人が少なくない。数十㌔の収穫物を運んだり、腰をかがめて長時間同じ姿勢を続けたりする場面や、重い荷物を持ちながらミカン畑のような急斜面を移動する過酷な姿勢が女性や高齢者らの大きな負担となっている。

 同大では2010年度から開発に取り組み、これまで県のミカン農家をはじめ、スイカやキャベツ、ダイコン、レンコンなど全国各地のさまざまな農作物の栽培・収穫現場で実証を重ねてきた。農家の人に実際にスーツを着用してもらい、「もっと着脱を簡単に」「軽くして」などの意見を丁寧に拾い、改良を加えてきた。

 ㈱矢野経済研究所(東京都)によると、16年度の国内のパワーアシスト市場は26億7600万円。20年度には40億5000万円規模になる見込み。日進月歩の分野で、市場は拡大を続けている。

 「一番厳しい作業姿勢を求められる農業を想定して開発したが、力仕事の多い他分野にも活用できる」と八木さん。例えば介護では身体介助に、物流では荷物の上げ下ろし、建設ではセメント袋の運搬などに役立つ。各方面から問い合わせが多く寄せられているといい、八木さんは「広く普及させ、農業をはじめ高齢化が進む各分野の人材確保につながれば」と期待する。

 八木さんが代表を務める和大発のベンチャー「パワーアシストインターナショナル㈱」(和歌山市)が製造販売。まずは10月中旬から20台をサンプル出荷し、来年2月から年間100台をめどに量産出荷する計画となっている。1台約100万円で販売し、普及すれば価格は下がる見通し。

収穫物の運搬など装着者の動作を助けるアシストスーツ(八木さん提供)

収穫物の運搬など装着者の動作を助けるアシストスーツ(八木さん提供)