鈴木屋敷復元の弾みに 藤白神社に謡曲奉納
和歌山県海南市藤白の藤白神社境内にある「鈴木屋敷」復元に向けて機運を盛り上げようと、東京の観世流能楽師・鈴木啓吾さんが10日、復曲した鈴木姓ゆかりの能『鈴木三郎重家』の謡曲を同神社に奉納する。屋敷の復元を目指す関係者は「この地で鈴木にちなんだ能の世界にふれられるのは貴重な機会。復元へ、地元にも理解や協力を呼び掛けたい」と意気込んでいる。
鈴木屋敷は、平安時代に熊野から移り住み、122代続いたといわれる鈴木氏が代々生活した屋敷。全国に約200万人いる鈴木姓のルーツとされるが、老朽化が進み、復元に向けた整備が進められている。
鈴木啓吾さんは2016年に同地を訪れて以来、「鈴木姓の自分ができることはないか」と思い立ち、廃曲となり約300年上演されていなかった、鈴木姓にちなんだ古曲『語鈴木(かたりすずき)』を『鈴木三郎重家』として復曲。鈴木屋敷を知ってもらい、寄付を呼び掛けるための勧進能として昨年3月に国立能楽堂で上演した。
当日は午前10時から、拝殿で謡曲「神歌」「鈴木三郎重家」を奉納。その後、境内に設けられた舞台で、鈴木さんが鈴木三郎重家が仕えた源義経に関する仕舞「屋島」を披露。鈴木屋敷復元の会のメンバーも鈴木さんと共に「鈴木三郎重家」の謡の一節を披露する。
また、11時からは県建築士会副会長の中西重裕さん案内のもと、解体を終えた鈴木屋敷を見学する。
当日に向けて、2月24日には鈴木さんが藤白神社を訪れ、舞台に上がるメンバーに謡の手ほどき。手本を示しリズムをとりながら、独特の節回しなどをアドバイスした。
復元の会の神出勝治会長は「市内には鈴木姓が少なく、鈴木さん自身が動いてくれることは大きな力になる。今後も、何とか全国の鈴木さんに助けてもらって復元し、ここから出て行った鈴木さんに、今度は戻って来てもらえるようにしたい」。鈴木さんは「観世流のプロの能楽師で鈴木は私一人。偶然にも廃曲となった『語鈴木』を見つけた際には、一肌脱げと祖先に言われたかのような思いでした。復元事業をさらに勢いづけることができれば」と話している。
鈴木屋敷については、屋敷を含む境内などが国史跡に追加指定されていることから、工事費の総額1億5000万円のうち、6割を国と県、市が負担し、残りは神社が負担。個人からも寄付を募っている。
ことし1月からは、市が企業版ふるさと納税を活用した寄付の呼び掛けを始めた。2020年度に着工し、21年度内の完成を目指している。
境内での観覧や屋敷の見学は無料。申し込み不要。問い合わせは藤白神社内事務局(℡073・482・1123)。