ぶらくり丁の朱洸ビル 56年の歴史に幕
和歌山県和歌山市のぶらくり丁内で、長年多くの市民に親しまれてきたファッション衣料の朱洸(辻節子社長)の現店舗が31日、56年の歴史に幕を閉じる。時代の最先端のファッションを求めた若者らと共に、昭和を駆け抜けてきた同店。辻社長は「地域の皆さまに愛され、きょうまで続けてこられました。感謝の気持ちしかありません」と話している。
1962年、同市中ノ店南ノ丁に現在の本社ビル(地上5階建)が完成。県内の衣料品店で初めて商品に値札を付け、誰もが同じ値段で購入できる「セルフ販売」を取り入れ、割引セールを行うなど、現在に通じる販売方法を確立させた。最盛期には県内を中心に、和歌浦や松江など最大10店舗を展開。時代のニーズに応えた品ぞろえと、温かみのある接客が多くの人々に愛されてきた。
築50年以上が経過した同店はここ数年、新たな耐震基準を満たすための補強を課題としてきたが、昨年9月の台風21号で屋上などに大きなダメージを受け、今後の営業継続が困難となり、閉店を決めた。
閉店の知らせを聞いた常連客らは一様に寂しげな様子で、市内に住む75歳の女性は「ここへ嫁に来てから、50年以上通っている。きょう着ている服も、この店で買ったもの。朱洸に来ると買い物だけでなく、顔なじみの従業員さんやお客さんとしゃべれて楽しかった。なくなってしまうのは本当に寂しい」と残念がった。中には「ちょっとやけど、有志で基金を募るので何とかならんかな」と願う常連客もいた。
閉店を惜しむのは常連客だけでない。1963年に18歳で入社し、56年間販売員として働いてきた畠中優子さん(74)は、就職のために箕島から出てきたという。「当時は先代社長(現会長)の自宅近くの寮で生活し、食事を共にするなど家族以上の間柄で本当に温かく育ててもらいました」と懐かしく振り返る。「朱洸は私の人生そのもの。これまでの感謝の気持ちを込めて最後まで精いっぱいお客さまに向き合いたいと思っています」と涙をこらえながら話した。
辻社長は「これからは、ぶらくり丁の『エルビアン』を朱洸として営業を続けます。規模は小さくなりますが情熱は変わりません。引き続き朱洸をよろしくお願いいたします」と、感謝とともに新たなスタートへ思いを込めている。