「票が読めない」 保守分裂の海南・海草選挙区
和歌山県議選(7日投開票)で従来と構図が大きく変わった選挙区の一つが海南市・海草郡(定数3)。過去3回は自民2、共産1で議席を分け合ってきたが、今回は海南市議4期連続トップ当選の新人の転戦により、地域や年齢層で一定のすみ分けがなされてきた保守層を中心に支持の争奪戦が激化している。4陣営とも「票が読めない」と声をそろえる戦いは終盤を迎えている。
立候補しているのは届け出順に、自民現職の尾崎要二(66)=8期=、無所属新人の中西徹(46)、自民現職の藤山将材(43)=4期=、共産新人の河野敬二(69)の4候補。候補を立てていない公明が自民の2人を推薦している。
現在の選挙区になって過去3回はいずれも尾崎氏、藤山氏、今期で引退する共産の雑賀光夫氏が議席を獲得。最初の2回は無投票、前回は維新の党(当時)の落下傘候補の参戦で1人超となったが、3氏が2000票以上の大差で退けており、4回目の今回は「久し振りに選挙らしい選挙で、危機感、厳しさを感じる」(現職陣営)との声がある。
選挙区の情勢を一変させたのは中西候補。昨年4月の海南市議選では2689票を獲得し、2位に1000票以上差をつけてトップ当選している。下津町を主な地盤とし、尾崎候補とは同じ地区に住み、重なる支持層は多く、これまで「県議会は尾崎、市議会は中西」という選択ができた有権者には特に悩ましい状況となっている。
陣営によると、支援の呼び掛けに「両手を上げて喜んでくれる人もいれば、当たり障りのない反応もある」が、「あまり他候補のことは気にしない。守る現職の方がしんどいのではないか」と話す。
初めて選挙を戦う紀美野町での知名度はまだ低いとし、後援会などの人脈を通じてあいさつ回りを続ける。最終日まで「歩くだけ歩き、回れるだけ回る」。
尾崎候補は8期目の重鎮で、前回は1万1095票で2位に4500票以上の差をつけてトップ当選している。それだけに陣営は「有権者から『尾崎さんは心配ないよ』と思われるのが怖い。これまでの選挙とは危機感が違う」と話す。
選挙事務所には下津町内の区長の推薦状が数多く並んでいるが、中西候補の出馬で混戦となったことにより「例えば家族の中で3票入れてくれていたうちの1票が他に流れる、といったことが起こりかねない」とし、支持固めの声掛けを徹底している。
一般的に選挙対策スタッフが決めることが多い日々の街宣場所は、尾崎候補自身が毎日決めているという。選挙区内を熟知するベテランの肌感覚で、有権者の反応を確かめながら判断している。
現職の県議会議長として負けられない戦いの藤山候補の陣営も、中西候補を警戒している。「うちの保守票にも影響があるし、中西さんは初陣で元気もある。市議会で断トツの人だから、票を積んでくるのは間違いないが、それがどこまでかで情勢は変わる」と頭を悩ます。
告示直前まで県議会が開かれ、議長の公務のため、藤山候補自身があいさつ回りなどの活動にあまり時間を割けなかったことも「苦しい要因」という。
告示後は選挙カーに乗り込んで街宣するよりも、車を降りて歩き、有権者に顔を見せる活動に力を入れている。「つぶさに会いに行くしかない」と最後の追い込みに懸命だ。
河野候補は、海南市議9期を務め、40年以上前から少年サッカーの指導員をしている人脈などから、共産支持層にとどまらない支援者を持つ。陣営は「党派を超えて票を取らないと勝てない」とし、党として長く維持してきた議席の死守へ、支援の拡大を図っている。
海南市の玄関口、和歌山マリーナシティに県が誘致を進めるカジノを含む統合型リゾート(IR)や消費税引き上げ反対などを掲げ、「他候補が誰も言っていない政策を訴えている。違いをはっきり有権者に知ってもらいたい」と話す。
路地の多い古くからの住宅街などはハンドマイクを手に歩いて回り、政策の浸透を図っていく。