紀州漆器を世界に発信 令和に輝く紀州人①
和歌山県海南市岡田の「山家(やまが)漆器店」の山家優一さん(31)は、3年前から家業に従事。伝統的な紀州漆器の盆や皿などを製造し、通信販売する一方、海外の漆器ファンを増やそうと、伝統にとらわれないユニークなデザインも手掛ける。ビジネス形態をはじめ、ますます変化が予想される令和の新時代には「困難をも楽しめるマインド」が必要と考え、海南の古き良きものづくりを、新たな手法で世界へ発信する。
山家さんは近畿大学文芸学部で英米文学を専攻し、卒業後はテレビ番組制作会社に就職したが1カ月で退職。続いて大阪南部の包装資材の中小企業で3年間営業職を担当し、住んでいた和歌山市内で外国人との交流会などに参加し、英会話にも磨きをかけた。
そこで築いた交友関係をきっかけに、26~28歳の3年間、電気設備会社の社員としてミャンマーで勤務。同国最大の都市ヤンゴンで暮らし、ODA(政府開発援助)関係の仕事に従事しながら、余暇には行きつけのバーなどで地元住民やアジア諸国の友人と交流を深めた。
現地から家業の漆器店のホームページの更新も行い、ヒットしやすい検索キーワードや、分かりやすい構成などを工夫するうち、「越境EC」(国境を越えて通信販売を行うオンラインショップ)を活用して家業を盛り立てたいと思うようになり、帰国した。
現在は㈱やまが社長であり、山家漆器店の営業部長。語学力を生かして英語版ホームページを作成し、「国内の人口減少を悲観するばかりでなく、品質の良い日本製品を海外へPRし、外貨を稼ぐことが大切ではないでしょうか」と話す。
紀州漆器の全国シェアが高い飲食店用の角盆などは、塗りの工程を機械で行うなどして低価格での提供を実現。一方、海外向けには、職人が伝統技術で和風の図柄の蒔絵(まきえ)を施した製品などを適正な価格で提供することに努めている。
「需要に応じた量産体制で利益を上げながら、ブランド力を高めるためには、売るよりも“魅せる”ことを意識した仕事も必要です」
海外からの注文は現在、アメリカやスペイン、台湾などから週に3~5件程度だが、確実に漆器への関心の高まりを感じている。人気が高い屏風(びょうぶ)型の時計に注目した山家さんは「富士山のような日本の景色ばかりが求められているとも限らない」と考え、アメリカの顧客向けに自由の女神をデザインした商品を生み出した。紀州漆器のブランド名と、塗りの技術力を世界に広く知ってもらうための挑戦は、令和の時代に本格化していく。
新時代については「個人が尊重される時代」と予想し、「フリーターやニートなど、一見、不安定ともみられる期間を過ごした人も、その経験が強みになります」と話す。
価値観の多様化や社会の国際化がさらに進み、先が読みづらいともいえる状況にも、「楽しみながらやることが大切です。思い通りにならないことがあったとしても、多くのことを経験した方が、人生も豊かになるのではないでしょうか」と信じている。