音楽に宿る感情 中谷さんピアノリサイタル
和歌山市出身のピアニスト・中谷政文さんのリサイタルが12日、和歌山県和歌山市野崎の音楽ホール「緑風舎」で開かれ、文学や宗教、民族性などにまつわる重厚なクラシック音楽のプログラムに、満席の聴衆が聴き入った。
中谷さんは35歳。東京藝術大学ピアノ専攻を卒業し、マイアミ大学フロスト音楽学部博士課程で博士号を取得。第8回ソフィア国際ピアノコンクール第1位(2008年)をはじめ数々の入賞歴があり、18年度和歌山市文化奨励賞を受賞している。
中谷さんは、「クラシック音楽=癒やし」という図式で語られがちな側面だけでなく、音楽には安らぎや驚き、苦悩、歓喜など人間が体験するあらゆる感情が混在しているとし、作曲家固有の思想や物語を感じられるプログラムを構成。リサイタルのテーマ「エクレクティシズム」には、取捨選択するなどの意味があり、「今、本当に弾きたい曲を、国や時代にとらわれずに選んだ」という。
ゲーテの戯曲『ファウスト』を基にしたラフマニノフのピアノソナタ第1番では文学的な世界を、エネスクのルーマニア狂詩曲第1番では狂乱的な民族の踊りを表現し、この他、ストラヴィンスキー(アゴスティ編)のバレエ組曲「火の鳥」から3曲などを演奏。力強さと繊細さを兼ね備えた硬質の打鍵から生み出される多彩な音色がホールを包んだ。
緑風舎主宰の岡畑精記さんはあいさつで、同所で演奏した多くの演奏家の中でも、中谷さんは際立った存在だと話し、10月に初開催される「きのくに音楽祭」のメイン出演者の一人であることも紹介。和歌山が生んだ若きピアニストのさらなる活躍に期待を寄せ、聴衆に応援を呼び掛けていた。