葛城修験と女人高野 日本遺産に県内2件
文化庁は19日、地域の歴史的・文化的魅力を語るストーリーを認定する「日本遺産」に、和歌山県内を関連地域に含む「『葛城修験(かつらぎしゅげん)』―里人とともに守り伝える修験道はじまりの地」と「女性とともに今に息づく女人高野~時を超え、時に合わせて見守り続ける癒しの聖地~」など21件を新たに選んだ。仁坂吉伸知事は「大変うれしい。歴史的な背景に根差したそれぞれの価値が評価された」とコメントしている。
日本遺産は2015年度に創設され、県内からの認定は16年度の「鯨とともに生きる」を皮切りに、今回で5年連続、計7件となる。
海から始まる修行 地域の生活と密接
「葛城修験」の対象地域は、和歌山市、紀の川市、岩出市、橋本市、かつらぎ町を含む3府県19市町村にまたがり、構成文化財は91点。
和歌山、大阪、奈良の府県境にそびえ、総延長112㌔に及ぶ和泉山脈と金剛山地の一帯は「葛城」と呼ばれ、修験道の開祖・役行者(えんのぎょうじゃ)が最初に修行を積んだ地とされる。
この地には、役行者が法華経八巻二十八品を一品ずつ埋納したとされる経塚があり、最初の経塚は和歌山市加太沖の友ヶ島の虎島に位置する。山岳修行の修験道としては珍しく海から始まる修行の道であることも特徴で、加太では春に修験者が集い、北ノ浜で大護摩供(だいごまく)が行われる。
修験者たちは現在も、経塚や役行者ゆかりの社寺、滝、巨石などを巡って修行する。修験者の接待を続けている地域や関連資料も残されており、紀の川市中津川では、葛城修
で最も重要な儀式「葛城灌頂(かんじょう)」が行われる行者堂が守り続けられている。土地の人々の信仰や生活と密接に関わっている点も葛城修験の大きな特徴といえる。
対象地域では認定に喜びの声が上がっており、尾花正啓和歌山市長は「加太では修験者の姿が風物詩となっており、修験者を迎える文化が息づいている。地域や関係者と力を合わせ、魅力的な歴史文化遺産を生かしたまちづくりに取り組む」と話している。
女性たちの願い聴く 名所図会に残る調和
「女人高野」は、九度山町と高野町、大阪府河内長野市、奈良県宇陀市の3府県4市町村が対象地域で、25点の文化財で構成される。
真言密教の聖地・高野山には近代まで「女人結界」が定められ、山内への女性の参拝は認められていなかった。
しかし、空海の母・玉依(たまより)御前が滞在し、本尊の弥勒菩薩に化身したという信仰が伝わる慈尊院(九度山町)、同院からの町石道を登り切った女人結界に建てられた女人堂(高野町)、室生寺(宇陀市)、金剛寺(河内長野市)の4寺は、空海と縁を結び、祈りを届けたいという女性たちの願いを聴き、「女人高野」と呼ばれてきた。
4寺院の様子は江戸時代、諸国の社寺や景勝地などを解説し、旅行ガイドブックのように親しまれていた「名所図会」に描かれ、優美な曲線を描く堂の屋根、柔和な仏像の表情、移ろう四季の木々など、今も変わらない調和した空間を伝えている。
女人高野は、住民と共に祭礼を行うなど、地域に根差し、訪れる多くの女性たちの願いを聴き、癒やす場であり続けている。
認定を機に、県や関係の各市町村、観光団体などは、県内外からの誘客に向け、受け入れ体制の整備や認知度向上などの取り組みを進めるとしている。