1億総活躍社会って、なあに? ―なめたらあかんで
安倍総理は、金融緩和、財政出動、成長戦略の三本の矢を引っ込め、強い経済、子育て支援、社会保障の新三本の矢への移行を宣言しました。アベノミクス第2段の目標は「1億総活躍社会」です。戦時中、日本政府のキャッチフレーズは、「一億一心」、「一億火の玉」。そして、終戦後の東久邇宮内閣では、「一億総懺悔(ざんげ)」。古色蒼然とは、こういうことです。
子育て支援は、希望出生率1・8の実現、待機児童ゼロ、幼児教育無償化など。そのこと自体は国民の誰もが賛成することですが、財源についての説明はありません。介護離職ゼロなどの安心につながる社会保障も素晴らしいですが、財源はどうするのか。老人ホームや介護施設を増やすと言っても、人手不足の現実をご存じなのでしょうか。安倍総理は2017年4月の消費税10%引上げは、必ずやると言っていますが、その財源は既に別の社会保障の充実に充てられる予定です。
アベノミクス第1段の検証もないまま、第2段に移行したのはなぜでしょうか。安保法案の強行採決による内閣支持率低下を取り戻すための目くらましに他なりません。
名目GDPを20年度に600兆円(14年度490兆円)にするとも言っています。本当に可能でしょうか。実質成長率で2%以上の成長が必要ですが、14年度の成長率はマイナス0.9%。IMFの見通しでは、15年0.6%、16年1.0%でしかありません。無理を承知で、インフレ期待をあおるための方便だと思います。
確かに、株価は政権発足時の1万80円から1万8千円台に回復。しかし、個人消費は伸びていません。実質賃金が、いまだにマイナス3%のままだからです。消費税の増税だけが原因ではありません。正社員はこの間で60万人減る一方、非正規の労働者は180万人増加。貯金ゼロ世帯もついに3割を超え、貧富の格差は確実に広がりました。
為替は80円台から120円前後に円安に振れましたが、輸出数量は増えることなく、大企業の帳簿上の利益をふくらませるだけ。設備投資にもつながっていません。笛太鼓で始まった日銀のインフレターゲット政策も、8月、ついに消費者物価(除く生鮮食品)がマイナスになりました。むしろ、国債の大量購入により市場をゆがめ、出口戦略が描けない状況です。成長戦略は、成果が見られません。いまだに、経済の潜在成長率は0・3%程度しかありません。600兆円は夢まぼろしです。
アベノミクスをやりっぱなし、言いっぱなしのまま反省もなく、美辞麗句だけの次の目標を掲げるのは、いくらなんでも、国民を馬鹿にしてはいませんか。