伊勢路旅(34)三重県松阪市⑤

今週は、松阪市をはじめとする伊勢地方で古くから息づく文化について紹介したい。

紹介したいのは、この地域で年中を通して玄関の軒先に飾られている「しめ縄」だ。松阪城や御城番屋敷の取材のため、筆者が当地を訪れたのは5月上旬のこと。一般公開されている御城番屋敷の玄関先で「この時季になぜ」と違和感を覚え、その理由を調べてみることにした。

時代は遥か昔。日本神話に登場する須佐之男命(すさのおのみこと)が伊勢を旅した際、宿屋がなく困っていたところ蘇民将来(そみんしょうらい)という名の家族が親切心で家に泊めたという。その夜、悪疫が集落を襲うことを察した須佐之男命は家族に茅(かや)の輪を編ませ家の周囲に張り巡らせたところ、その家族だけが疫病にかからず難を逃れたという。

以後、慈悲深い蘇民将来の子孫であるという門符(もんぷ)を、茅飾りと共に玄関に掲げることにより厄払いをしようという文化が根付き、現代まで受け継がれている。

門符とは、しめ縄の中央に掲げるお札で「蘇民将来子孫門(そみんしょうらいしそんもん)」と書かれている。この神話の舞台とされる伊勢市二見町の松下社(まつしたやしろ)という神社で頒布される他、適当な大きさの木板に一家の長が筆で書いたりと、この地域の年末の風物詩となっている。

近年は「蘇民将来子孫門」の「将」と「門」の字から「笑門」(将門と書くと平将門を連想するため「笑」の字に書き換えられる)、「先客万来」などと現代風にアレンジされることも多くなり、年末になるとホームセンターなどでも販売されるという。

御城番屋敷の玄関先に掲げられている「しめ縄」(5月上旬撮影)

御城番屋敷の玄関先に掲げられている「しめ縄」(5月上旬撮影)

古くから息づく伊勢ならではの文化がここにある。(次田尚弘/松阪市)