12年ぶり能を披露 小林観諷会98周年公演

和歌山市吹上の観世流能楽師・小林慶三さん(85)が主宰する小林観諷(かんぷう)会が98周年を迎え、2日、同市の県民文化会館小ホールで記念公演「能と謠(うたい)」を開く。ことしは12年ぶりに能を上演。小林さんは「継続は力。これまでの積み重ねが少しずつ実になってきたように思います。100周年に向けて弾みになるような会になれば」と話している。

「小林観諷会」は大正9年、小林さんの父で観世流能楽師の小林憲太郎師が設立。低迷していた和歌山能楽界の復興の中心を担い、現在まで文化庁認定の重要無形文化財保持者の慶三さんが継承してきた。

公演は毎年、一年間の成果発表として開催。能の上演は平成17年に楠山繁さんが演じて以来で、安田さやかさん(31)が「羽衣」に挑む。安田さんは兵庫県芦屋市在住。夫が和歌浦出身であることから、和歌山とのつながりもあり、小林さんのもとで能を始めて5年になる。

中学生の頃から日本舞踊を続けていることもあり、基本的な所作に関しては小林さんも太鼓判。しかし、羽衣の上演時間は1時間以上に及ぶため、安田さんは「今まで経験したことのない未知の世界。片時も気が抜けませんが、大好きなお能を演じられるのはうれしいこと。精神力で乗り切りたいです」と意気込む。

また、小学2年生で体験したワークショップをきっかけに能を始めた、和歌山市出身で近畿大学工業高等専門学校(三重県)新2年生の宮楠昂之さん(16)の演目は、舞囃子「敦盛」。一ノ谷合戦で16歳で討たれた平敦盛を描いた演目で、平家没落の哀れさ、戦の勇ましさ、極楽浄土に出るまでを演じる。

昨年の秋以降、週末は和歌山に帰り、稽古を重ねてきた宮楠さんは「まだまだ課題はたくさんあるけれど、どれだけ役になり切れるか。熊谷直実(なおざね)が迫ってくる合戦の情景が伝わるよう舞いたい」と稽古に励む。

公演は10代から間もなく90歳を迎えるという人まで約30人が素謡や仕舞、舞囃子、独調などを披露。楠山繁さんの仕舞「清経」や大橋彰代さんの仕舞「東北」、小林さんの番外仕舞「網之段」などがある。

今回は初の試みとして公演パンフレットを一新し、能の解説を付けた。小林さんは「顔ぶれも、うんと若返りました。久々に能を上演でき、にぎやかな会になると思います」と話している。

午前9時半から午後5時ごろまで。入場無料。問い合わせは小林観諷会(℡073・422・9304)。

小林さん㊨から稽古をつけてもらう宮楠さん

小林さん㊨から稽古をつけてもらう宮楠さん