コバルトで米市場挑戦 理美容専門の菊井鋏

理美容専門はさみの製造・販売を手掛ける㈲菊井鋏製作所(和歌山市小雑賀、菊井健一代表)は、最高級の材質と機能性を追求した自社ブランド「コバルトシリーズ」のアメリカでの市場開拓に乗り出している。日本政策金融公庫の「新事業活動促進資金」の適用を受け、今夏から市場調査や現地での展示会を行う。和歌山発の優れた技術の世界挑戦が注目される。

同社は、健一代表(29)の祖父・菊井喜代次さんが昭和28年に創業し、同56年に㈲菊井鋏製作所を設立。プロフェッショナルの仕事を支える優れたはさみ作りにこだわってきた。

「コバルトシリーズ」は、昭和48年に同社が開発した、世界で初めてコバルト基合金を使用した理美容はさみ。希少金属であるコバルトを約70%含有し、鉄をほとんど含まないため、さびることがなく、切れ味が長続きする。初期モデルの発売から40年以上、多くの理美容師に選ばれ続ける同社を代表するブランドであり、平成27年度のグッドデザイン賞を受賞している。

使い手の理美容師の好みに応じて、はさみのハンドルや刃材の長さなどを変えて製作するオーダーメードは創業当時から受注していたが、健一さんの父・一夫さん(62)が平成2年ごろから本格的に始めた。現在は全国から製作の依頼があり、生産量の2~3割を占めている。

健一さんは「職人が注文に応じて、異なる溶接や磨きの作業を行うオーダーメードは、手間はかかるが不良品が減るメリットもある」と話し、自身も含め、社員10人のうち9人が職人である工房については「高い品質と納期を守る私たちの技術は日本一だと感じる」と胸を張る。

「はさみの命は、人に伝わるはさみの動き方であり、私たちは『調子』と呼んでいる。人の調子と同じような意味を表し、私は、はさみを相棒のように捉えて携わっている」と話すのは、勤続36年で工場長を務める辻内利勝さん(54)。

先代の父について健一さんは「アメリカで暮らすことを夢見ており、思い立ったら即行動に移すタイプ」と評する。一夫さんが15年ほど前にアメリカでの市場開拓に挑戦した当時は、はかばかしい成果は得られなかったものの、「キクイシザーズ」の製品を記憶にとどめていた当時の関係者から、2年前に約50丁の注文があったことに、手応えを感じている。

昨年3月に事業承継し、代表となった健一さんは京都大学工学部出身。鋳物を扱う家業とは畑違いの分野に進学した末に家業を継いだ理由は、「伝統や職人の技を守り、リノベーションをする機運の高い京都で学生生活を送ったことも関係しているかもしれないが、何かを生み出す仕事をしたいと強く願うようになったから」。

古参や若手の職人、行動的な父、「考え過ぎる」と自らを分析する健一さんで構成される「キクイシザーズ」のメンバーは、折にふれ製品の情報発信などの策を練る。

健一さんは「大衆的な製品を好むアメリカの市場への挑戦は難しいが、それを面白いと捉え、伸び伸びとチャレンジしたい」と力を込めている。

工房で自慢の製品を手に健一代表

工房で自慢の製品を手に健一代表