体で覚える「能楽」 和大で実践講義5年目
和歌山大学(和歌山市栄谷)が、同市の観世流能楽師・重要無形文化財保持者の小林慶三さん(85)を講師に開く講義が、5年目を迎えた。国立大学では極めて珍しいという日本の伝統芸能の実践授業。小林さんは「最初は講義の仕方も手探りでしたが、今ではスムーズ。教育の現場に出て、引き続き熱心に能ワークに参加してくれる先生もいて、5年間の積み重ねは顕著です」と話している。
同大教育学部の菅道子教授と、上野智子准教授が担当する「中等音楽科教育法C」の講義の一環。小林さんのワークショップを受けた菅教授が「教員を目指す大学生に、ぜひ本物の日本の伝統芸能にふれてもらいたい」と小林さんに指導を依頼して実現した。
学生たちは全4回で、中学校の音楽の教科書にも採用されている「羽衣」の謡(うたい)と舞に挑戦。「和歌の浦万葉薪能」の舞台で成果を発表するなど、学外の地域に溶け込んだ活動にもつながっている。
興味を持った学生が卒業後も小林さんのワークショップを受け、能楽を授業に取り入れようと試みたり、小林さんが小中学校で開く能の体験授業で、菅教授らが効果的な教材づくりをサポートしたりするなど、大学との連携も生まれている。
本年度の初回は3回生3人が受講。小林さんは、能楽が生まれた時代背景や成り立ちなどを説明。謡い方は「ツヨ吟」「ヨワ吟」の2種類があるとし、謡本に記された記号の意味や、複雑な音階の発声の仕方を、手本を示しながら丁寧に指導した。
西洋音楽と発声方法が異なるため、「節で覚えるのでなく、体に染み込ませるように覚えた方がいい」とアドバイス。舞の稽古では、学生たちは扇を手に、重心を落とした体勢でゆっくりと歩く「すり足」を教わった。
昨年、和歌の浦万葉薪能のワークショップにも参加した奥山杏菜さん(21)は「謡の記号や発声方法をきちんと理解できるよう頑張りたい。将来、見本とまではいかないまでも、子どもたちに少しでも日本の伝統文化に興味を持ってもらえるよう、伝える力を身に付けたいです」と笑顔で話していた。
同講義は、学生が自らの意志で活動や学びを深める「自主演習」科目にもなっており、菅教授は「とても貴重な講義で、何より先生が活動的に指導くださるおかげ。学生たちは授業外でも練習を重ね、大学生活の中でもお能の謡が響くなど、多くの学生に耳慣れたものになっているようにも思います」と話していた。