建築は「記憶の器」 郭家住宅の保存シンポ
シンポジウム「近代遺産の保存と活用 郭家(かくけ)住宅を事例として」が11日、県立近代美術館(和歌山県和歌山市吹上)で開かれた。研究者やまちづくりの専門家らが、今福の国登録有形文化財・郭家住宅について解説し、市内でも価値ある近代建築の取り壊しが相次ぐ現状を報告。近代建築史研究の第一人者で東京大学の藤森照信名誉教授(70)は「建築は地域共通の『記憶の器』。なくなったとき、その重要性に初めて気付く。人も地域も記憶喪失になってはいけない」と訴えた。
建築遺産を生かしたまちづくりについて考えようと、郭家住宅の会が主催。約90人が来場した。
同住宅は明治10年に建築。老朽化で個人の維持管理が難しい状況にあり、同会では保存・活用に向けた道を模索している。
「明治初期洋風建築について」をテーマにした基調講演では、藤森名誉教授が近代建築の特徴や変遷を紹介。長崎や神戸などに見られ、公共建築に多く取り入れられたベランダ・コロニアル様式について「ヨーロッパ人以外の住宅で、洋風のベランダを付けたのは郭家が日本で最初の可能性がある」と話した。
シンポジウムは、同会世話人代表で建築史家の西山修司さんをコーディネーターに進行。今福連合自治会長の中西俊五さんは「郭家住宅は今福で胸を張れる貴重な資産。何とかして守り、残してもらうのが悲願」と話した。
県建築士会まちづくり・委託事業委員会委員長の明石和也さんは、歴史的価値の高い建造物を生かしたまちづくりに関する法整備や、市町村と連携し観光に生かす取り組みなど、近年の動向を紹介。また、市内の住宅建築の事例を写真で示しながら、価値が高いとされながらも、やむを得ず解体されるケースが多くあるとした。
歴史的建造物を後世に残す意義について話が及ぶと、藤森名誉教授は「古い建物が呼び起こすのは、『懐かしい』という感情。それは決して後ろ向きなものでなく、自分の時間が連続していることを確認できたときに生じる。私たちは普遍である身近な建物を目にすることで、アイデンティティー(自分が自分であること)の確認を無意識に日常的にしている」と話した。
講演を聴いた市内の内田みどりさん(56)は「改めて郭家が貴重な建物だと感じました。個人住宅なので難しい面もあると思いますが、貴重な地域の財産なので、行政も努力して何とか残してもらいたいです」と話していた。