家康紀行(51)世界文化遺産「白糸の滝」
前号では静岡市清水区の清水港で提供される生しらすと、創意工夫で魅力を発信する取り組みを取り上げた。今週は舞台を富士宮市へ戻し、世界文化遺産「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」の構成資産の一部として知られ、那智の滝、華厳の滝(栃木県日光市)と共に「日本三大名瀑」に選ばれることがある白糸(しらいと)の滝を紹介したい。
白糸の滝は富士宮市の北部に位置する景勝地。幅150㍍の絶壁の全面から滝が流れ、最も大きな本滝を除くほとんどが富士山の湧き水であり、毎秒1・5㌧の流量を持つ。昭和11年、国の名勝と天然記念物に指定された。
江戸初期にかけて、富士山と神霊への信仰を行う「富士講(ふじこう)」と呼ばれる民衆信仰の開祖とされる「長谷川角行(はせがわ・かくぎょう)」が修行を行った場所で、これらを信仰する人々の巡礼の地となったとされる。18世紀に描かれた絵図にはその様子が記され、白糸の滝は富士山信仰の構成資産であることから平成25年に世界文化遺産の構成要素の一つとして登録された。
白糸の滝のほど近くに高さ25㍍の絶壁から轟音とともに流れ落ちる「音止の滝」がある。建久4年(1193)、源頼朝が富士の裾野で巻狩り(狩猟)を行った際、曽我兄弟が彼らの父親の仇である工藤祐経(すけつね)を討つという事件が起きた。曽我兄弟の密談がこの滝の轟音で声が遮られたが、神に念じたところ滝の音が止まったという伝説から音止の滝という名が残されているという。
那智の滝と同様に世界遺産の一部として登録され、その土地に織りなす文化や信仰の壮大さを肌で感じられ、現在も訪れる者を魅了し続ける文化遺産。世界に誇る日本の文化がここにある。(次田尚弘/富士宮市)