呼び上げ地蔵を避難訓練に活用 上神田地区
幕末の安政南海地震(1854年)の際、津波から避難する住民を導き、救ったと伝えられる和歌山県海南市井田の「呼び上げ地蔵」がある上神田自治会(大上敬史会長)は1日、言い伝えを活用し、汐見峠に祭られている地蔵を目指して避難する訓練を行った。
安政南海地震で海南にも津波が押し寄せた際、逃げ遅れた人々が汐見峠から見える不思議な光と「こっちへ来い」という声を頼りに坂を駆け上がると、先に避難した人々が待っており、地蔵の姿があったことから、命を救ってくれた「呼び上げ地蔵」として知られるようになったという。
伝承を活用した訓練は、市が同日に市内各地で行った防災訓練に合わせて実施。午前9時2分、大津波警報を知らせるサイレンが鳴ると、地区内の交差点付近に集合した20人の住民のうち、大上会長(59)を含む10人が標高約20㍍の峠に向けて先発し、大上会長が伝承にならって「こっちへ来い、津波が来るぞ」と呼び掛け、残りの住民が後に続いた。
地蔵堂の前に到着した後は、昭和南海地震(1946年)で身内を亡くした祖父から伝承を聞いたという山部榮二さん(87)が話し、住民らは言い伝えの追体験と、過去の地震を学ぶことで防災への意識を高めた。
山部さんは「他に皆が寄れる場所はないので、ここで避難訓練をするのはもっともなことだと思う」、大上会長は「若い世代の自治会への入会が減少しており、全員で取り組む防災訓練をはじめ自治会活動の大切さもPRしていきたい」と話していた。