辞退率増の課題も 裁判員制度10年でシンポ
裁判員制度の開始から10年となった21日、和歌山市の和歌山地方裁判所で、裁判員を経験した市民や弁護士、検察官、裁判官が話し合う意見交換会があった。これまでの運用を振り返り、刑事裁判の変化や、裁判員への選任を辞退する人の割合が高まっていることなど、今後の課題などを話し合った。
裁判員制度では、殺人や危険運転致死などの重大事件の裁判で、市民から選ばれた裁判員6人と裁判官3人が有罪か無罪かを認定し量刑も判断する。地裁によると、ことし3月末までに延べ681人が裁判員と補充裁判員に選ばれ、84人の被告人が裁判員裁判を受けたという。裁判員候補に選ばれた人の中で選任手続きを辞退する人の割合(辞退率)は、制度が始まった2009年は52・0%だったが17年は72・2%に上昇している。
和歌山地裁で刑事裁判の裁判長を務める武田正裁判官は、同制度が重大事件の裁判にもたらした変化について「以前は約1カ月ごとに証人尋問を開いていたが、裁判員の方の負担を考え連日開廷し、集中的に行うようになった」と説明。久保博之弁護士は「被疑者・被告人の供述調書を証拠に採用するケースが減り、客観証拠から事実認定を行い、法廷で心証を形成する傾向が強くなったように思う」と話した。
同地裁で行われた殺人未遂事件の裁判で裁判員を務めた50代の男性は「とても良い経験ができた。刑事事件は人ごとではなく、事件の背景に社会の問題があると考えるようになった。裁判員を経験することで、法律や社会のルールを守ろうという意識が高まるのではないか」。別の裁判で裁判員を務めた40代の男性は「裁判では素人にも分かりやすい説明をしてくれた。またやってもいいかなと思うくらい良い経験だった」と振り返った。
和歌山地検の的場健検事は制度開始からの10年間を振り返り、「最初の頃に比べて検察側の求刑を超える判決が減っているように思う。過去の裁判例を意識して判断しているのではないか。裁判員の自由がなくなってきたように感じる」と強調。裁判員に配慮し遺体や殺害現場の写真などの刺激証拠をイラストに置き換えることがあることについて、久保弁護士は「死因が争点となる裁判で大事な法医学の専門家の意見が採れない」とし、「正確で緻密な裁判という観点からはどうかという思いもある」と語った。
裁判員の選任手続きの辞退率が上昇傾向にあることについて、裁判員の経験者からは「裁判員候補者に選ばれた人を支援する義務を事業主に課しては」「裁判員を経験した人が経験を語る場がもっとあると良いのでは」などの意見が出され、久保弁護士は紀南地方に住む人が和歌山市の地裁本庁に行く負担の重さを指摘。「和歌山は広い。行きたくない、毎日行くのはしんどいなどの声がある。裁判所にはある程度の配慮を検討してほしい」と訴え、武田裁判官は裁判官が企業や経営者団体を訪れ、制度の仕組みや意義を語る出前講義を通じて制度への理解促進を図っていることを説明した。