熊野本宮の御田祭 無形文化財に追加指定
和歌山県教育委員会は24日、熊野本宮大社(田辺市)例大祭の日に行われる地域最大の祭礼「御田祭(おんださい)」を県の無形民俗文化財に追加指定した。子どもを主役に健康や幸福を祈る行事として大切に受け継がれてきた価値の高い文化財であり、例祭に先立って行われ、すでに指定されている「湯登(ゆのぼり)神事」と一体のものと位置付け、名称を「熊野本宮の湯登神事・御田祭」と改め、保護を図る。
県教委文化遺産課によると、御田祭は熊野本宮大社例大祭の4月15日に毎年行われ、地域の安泰や豊作を祈る祭礼として重視され、地元に親しまれてきた。
中核となる祭儀は、御旅所である旧社地・大斎原(おおゆのはら)で行われる「御田植(おたうえ)神事」。菊の花を模した造花「挑花(ちょうばな)」4基と神輿(みこし)の前に、4本の杭としめ縄で囲って神田に見立てた約3㍍四方の空間をつくり、古風な田歌が歌われる中、その周囲を、農作業道具や苗を持った男の子と、晴れ着に花笠をかぶった早乙女の女の子たちが時計回りに3周して豊作を祈る。
湯登神事は例大祭に先立つ13日、参加する神職らが心身を清めるために行う儀礼で、1966年4月に県無形民俗文化財に指定。神職らは湯峰温泉で湯垢離(ゆごり)を行い、湯峯(ゆのみね)王子を参拝後、徒歩で古道を通って山越えし、大斎原へ至る。
参加する12人の稚児は熊野十二所権現の使いとされ、神事の道中は神聖な存在として地に足を付けることが許されず、肩車をされている。各拝所では、ござを敷いた上で「八撥(やさばき)の舞」を奉納する。夕刻には一同が大斎原へ行列し、15日の祭礼を神前に奉告する「宮渡(みやわたり)神事」が行われる。
このように、熊野本宮大社に伝わる神事・行事は、子どもが主役となるものが多いことが特徴。特に御田祭は、同社第一殿に祭られ、万物の成長をつかさどる豊穣の女神である熊野夫須美大神(くまのふすみのおおかみ)に、子どもの健康と地域の幸福を祈る行事として、今日まで大切に受け継がれてきた。
御田祭の起源は定かではないが、平安時代後期の史料の写本に記述が見られるという。1889年に発生した熊野川大洪水で旧社地が流出し、移転した影響で、神輿渡御などの順路は大きく変化したが、祭礼そのものの位置付けや基本的な儀礼は多く現在まで残されている。
2010~12年度に県が行った民俗文化財調査により、専門家から、湯登神事と御田祭は一体の価値ある祭事であるとする見解が示されたことを受け、さらに調査を進め、今回の追加指定と名称変更に至った。