桜鯛の季節が到来 加太伝統の一本釣りに同行

和歌山県和歌山市加太の友ヶ島周辺で「桜鯛」が釣れる時期になった。加太で行われている「一本釣り漁法」はあまりに有名で、和歌山で生まれ育った私も名称ぐらいは知っている。でも実際に、この目で伝統の漁法を見てみたい――。まだ少し肌寒い3月中旬、好奇心に任せて、加太の漁師・幸前禎泰さん(51)の幸宝丸での漁に同行させてもらった。

3月から4月にかけて産卵期を迎える直前、マダイのメスが薄紅色になるのが春の桜の開花を連想させるため、この時期のマダイを桜鯛と呼ぶようになったという。

加太の海は森や川の恩恵を受けて成り立ち、友ヶ島周辺は餌となるプランクトンや海藻が豊富。そこで育った桜鯛は栄養価も高く、あっさりと上品な味わいで低脂肪・高たんぱくなのが特長。

朝日もまだ出ていない真っ暗な時間帯。ライフジャケットを装着し、午前5時50分に加太を出港した。「きょうは潮の流れが良くないから、釣れないかも」との幸前さんの言葉に、「そうは言っても釣ってくれますよね」と軽くプレッシャーをかけつつ、期待を込めて大海原へ。

加太漁協によると、加太では魚を傷付けない伝統の一本釣り漁法を続けている。糸を海中に垂らして指の感覚で釣り上げる、昔から続く職人技だ。

この日は穏やかな波で、太陽が顔を出し、次第に明るくなり始めた6時15分ごろ。「ここ見てみな。もうこの下にいてるから」と幸前さん。船のすぐ下、指差す先には何も見えなかったが、魚が集まっているらしい。

大事な瞬間を逃すまいと、カメラを準備。直後、海の中から真っ白なマダイが勢いよく上がった。すかさず網ですくい「鮮度が落ちるから、写真撮るんやったら早く」との幸前さんの言葉に、慌ててシャッターを切った。幸前さんによると、釣れた直後のマダイは仕掛けのストレスで表面が白くなっているのだという。

すぐに船のいけすへ。しばらくすると、少しずつ体の表面が薄紅色に変わっていった。釣った魚を生きたまま、丸一日、漁港のいけすで泳がせ、ストレスを軽減させてから出荷するそうだ。

幸前さんは「桜鯛も、引っ掛かかった時はストレスがかかって白い。でも本当はきれいなピンク色をしていて、べっぴんさんや」と笑った。

9時前には漁港に到着。全く船酔いすることはなかったが、実は泳ぎが全くできない。漁師さんたちから「泳げない女漁師第一号にどうや」とラブコール(!?)を受けて漁を終えた。

新型コロナウイルスの感染防止で外出の自粛ムードが広がる中、加太では多くの家族連れが野外でバーベキューを楽しんでいた。漁港には元気をもらえる鮮魚をはじめ、旬の海産物がそろう。

「ストレス発散、元気出しに、加太においなぁよ」と漁師の皆さん。私自身も元気をもらって帰途に就いた。

「べっぴんさん」の桜鯛を手に幸前さん

「べっぴんさん」の桜鯛を手に幸前さん