島正博さんの人生哲学 ラジオ小説スタート
ニット編み機の世界トップメーカー、㈱島精機製作所(和歌山県和歌山市坂田)の創業者、現会長の島正博さん(83)の半生を描き、「時代の先の先」を読む思考法や人生哲学に迫ったビジネス書『アパレルに革命を起こした男』(梶山寿子著、日経BP社)=写真下=を朗読する連続ラジオ小説が3月31日、和歌山放送で始まった。著者のノンフィクション作家・梶山さんは「島さんの生き方には、今の時代にこそ読んでほしい、聞いてほしいヒントがたくさんある」と話している。
梶山さんは、13年に死去した島さんの妻、和代さんの波乱の生涯を描いた『紀州のエジソンの女房』(中央公論新社、16年)を出版。次は島さんの経営哲学や仕事論について執筆したいと考え、昨年11月に『アパレルに革命を起こした男』を上梓した。
今回の書籍、ラジオ小説のキーワードとなっているのは、世界的に取り組みが広がる国連の「SDGs(持続可能な開発目標)」。
アパレル業界では、過剰供給により不良在庫が増え、日本だけで年間10億点もの衣服が、一度も袖を通されることなく廃棄されている現状がある。
島さんは1970年代から、資源を大切に、有効活用する生産の在り方を追求し、大量生産ではなく、消費者のさまざまな好みに対応する魅力的な商品を作れば、捨てられる服が減らせるのではないかと考えた。
95年にコンピューター制御で縫い目のないニットを立体的に編み上げる革新的な横編み機「ホールガーメント」を開発。生地のカットロスがなく、縫い代や縫い糸も不要で廃棄物を大きく減らせるなど、SDGsのビジョンを先取りし、「四半世紀の時を経て、ようやく社会が島さんに追いついた」(同書)。
同書は、島さんの先見性や「人がしないことをする」「いちばん難しいものから手掛ける」「技術、感性、ビジネスセンスのつながりで創造する」といった人生哲学の実践の軌跡を描いている。
ラジオ小説の開始に当たり、島さんと梶山さんは3月29日の和歌山放送の番組にゲスト出演。朗読を担当する小林睦郎アナウンサー、プロデューサーの中村榮三社長、パーソナリティーの赤井ゆかりアナウンサーとトークを繰り広げた。
中村社長は「島さんの歩みは和歌山の宝であり、誇り。もっと多くの人に知ってもらいたい」、小林さんは「島さんへのリスペクトにあふれた文で、大変なプレッシャーだが、読ませていただけてうれしい」と語った。
梶山さんは「島さんは何度もピンチをチャンスに変えてきた人。どこから読んでも前向きな気付きがある本にしたいと思い書いた。どんなラジオ小説になるか楽しみ」と話す。
島さんは、AI(人工知能)などの技術が発達する現代にあって「人間が創造性を発揮し、AIを生かし、つかさどる役目を果たさないといけない」と語り、新たな創造に意欲を燃やす。そんな自身のエッセンスがまとめられた同書に「時を得た本を書いていただいた」と感謝している。
ラジオ小説の放送は毎週火~金曜の午後4時25分から10分間。6月26日まで全52回の放送予定。