江戸時代の技法で修復 粉河本町地区だんじり幕

毎年7月末に和歌山県の紀の川市で行われる「粉河祭」のだんじりで使用する、同市粉河本町自治区の「傘幕」の修復がこのほど完了し、12日に同市の本町地区会館で納品とお披露目が行われた。

傘幕には「鳳凰麒麟乃図(ほうおうきりんのず)」の図柄が描かれている。天保年間(1830~45)に刊行された『紀伊名所図会』の巻之一「南町より出る車楽の図」には本町のだんじりが描かれている。上部分の傘幕の図柄と現在の傘幕の図柄が酷似しており、金糸・正絹糸の古さや刺しゅう技法から江戸時代後期(文政~天保年間)に制作されたと推定される貴重なものだ。

傘幕は縦2尺9寸(87・87㌢)、横12尺2寸(3㍍70㌢)。羅紗の生地に鳳凰と麒麟が雲の上を飛び戯れている姿を肉入れ刺しゅうで表現している。

図柄の鳳凰は、古代中国では四霊獣の一つで麒麟・霊亀・応龍とともに尊ばれた想像上の生き物。聖天子、出生の前触れとして出現すると伝えられる。孔雀に似た想像上の瑞鳥で雄は鳳(ほう)、雌は凰(おう)とされ仏教とともに日本に伝わった。

麒麟は中国神話に現れる伝説上の霊獣。聖人が現れる前に出現すると伝わる。獣類の長とされており、鳥類の長である鳳凰と並んで非常に縁起の良い図柄として対に扱われる。

補助事業である「紀の川市文化遺産活用・観光振興・地域活性化事業」を活用し、御坊市出身で祭礼用太鼓台刺しゅう製作販売の「紀繍乃や(きしのや)」(兵庫県洲本市)の縫箔師、川﨑順次さん(47)が約半年をかけて修復した。

川﨑さんによると、依頼を受けた際には鳳凰の尾羽根の先のガラス(ビードロ)が割れており、月日の経過による傷みも激しいなど修復作業には苦労したという。だが色合いが当時のまま残り、一部の生地には今では手に入らない熊の毛を織り込んで作られる「クマミミ」と呼ばれる貴重な部分もある。川﨑さんは古い糸をそのまま使い、当時の技法を用いながら丁寧に作業をしてこのほど完成させた。

鳳凰は純金糸と色彩豊かな正絹糸が使われ、もろ撚(よ)り、そろばん撚り、金一撚りと呼ばれるさまざまな技法で撚られた糸が使われる。

麒麟は全体的に純金糸が多く、体全体のうろこは硬さの質感を表現するために撚り金(2本の金を撚ったもの)が使用され、うろこの輪郭を際立たせるための黒塗りは古い刺しゅうでよく見られるという。

この日、関係者が会館に集まり、川﨑さんが図柄の説明や保存方法などを説明した。粉河本町自治区の児玉肇区長は「大変喜ばしいこと。歴史が戻ってきたようだ。大事に使いたい」と喜んだ。

川﨑さんは「修復には苦労した。貴重なものなので多くの人が喜んでいる姿を早く見られればうれしい」と話した。

刺しゅうについて説明する川﨑さん㊨

刺しゅうについて説明する川﨑さん㊨