被災地での活動語る 県警機動隊の前田分隊長

和歌山県警警備部機動隊の前田卓馬分隊長(32)は東日本大震災の発生後、福島と宮城に出動し、被災地で捜索にあたった経験を持つ。あれから11年。今も機動隊の一員として、被災地での経験や教訓を胸に「自己の向上はもちろん、後輩たちに自分の経験や能力を継承し、県警全体のレベルアップに貢献したい」と訓練に励んでいる。

前田分隊長が機動隊に配属されたのは、同震災の発生からちょうど1週間後の3月18日。訓練もままならない4月5日から10日間、福島県新地町に出動することが決まった。

柔道で培った体力と「何としてでも役に立ちたい」という強い思いだけで向かった被災地。「ニュースで見ていた映像よりも遥かに想像を絶する被害が目の前に広がっていた」といい、「倒壊家屋内での捜索中も度重なる大きな余震に襲われ、放射線量の測定や除染など、初めての経験ばかりに不安が募った」と振り返る。

6月にも10日間、宮城県仙台市に出動。がれきや土砂を排除しながら行方不明者を捜索した。いずれでも発見には至らなかったが、遺品となりそうなものや貴重品などを回収し、地元の警察署に引き渡した。捜索中、深々と頭を下げてくれた被災地の人たちに対し、「力になれず悔しかった」と話す。

被災地では重機などの資機材がなく、ロープの倍力システム(動滑車の原理を利用し、重量物を2分の1や3分の1の力で排除する技術)を活用して重量物を移動させたが、がれきや土砂、津波による浸水が妨げになり、大量の土をスコップで排除する人力での捜索に限界を感じた。

自然災害の脅威を肌で感じたことで、災害対策の大切さを痛感。「体力はもちろん、災害対策に対する知識が重要」という被災地での学びを教訓に、あの日の悔しさを糧(かて)にしながら、「具体的に何ができるか」、「どのような訓練が必要なのか」を考え、災害が起きる前にできることを全力でしてきた。

同震災後、全国でも多くの災害が発生し、改めて災害対策が重要視されている。機動隊では災害対策がマニュアル化され、訓練が細分化。重機を使ってがれきや土砂の排除訓練を行う他、土砂を効率よく排除するためのベルトコンベアーなど、さまざまな装備資機材も導入された。

当時はなかった「ショアリング」という技術も浸透。倒壊家屋に侵入して救助活動をする際、二次災害を防止するために行う措置方法で、11年前に倒壊家屋内で余震に襲われた時に痛感した、「組織としての安全管理はもちろん、隊員一人ひとりの危機管理の重要性」が形になってきていると感じるという。

また、県内でも南海トラフ巨大地震などの災害に備えるため、救急隊員などの医療機関と認識の統一を図る他、迅速な救出・救助活動を行うため、消防や自衛隊などの防災関係機関との合同訓練など、さまざまな訓練を実施している。

「機動隊は命に直結する職務で責任は重大だが、これほどやりがいのある仕事は他にない」と話し、「災害対策のエキスパートチームの一員として、災害現場活動を学べる機動隊を目指す人がもっと増えてくれれば」と願っている。

 

被災地での活動を振り返る前田分隊長

 

行方不明者を捜索する隊員たち(県警提供)