温暖化の課題から生まれた「さくひめ」

前号では、酸味が少なく、とろける食感が特徴で、県内の栽培が盛んな「日川白鳳」を取り上げた。日川白鳳と時を同じくして収穫される品種がある。今週は「さくひめ」を紹介したい。
さくひめは、低温である期間が短くても育成可能で、ブラジルから導入された「Coral」という品種と、果実品質に優れた早生品種である「ちよひめ」などを交雑させて作られた品種。
一般的な日本の桃は、冬季に7・2度以下となる低温期間が1000~1200時間程度必要とされるが、さくひめはその半分程度で済む。開花時期は日川白鳳と比べ10日程度早く、収穫期は5日程度早い。名前の由来は、他の品種よりも一段と早く花が咲くからであるという。2018年に登録された新しい品種である。
果実の重さは250㌘程度。果肉は白色で糖度は12~13度程度で酸味は少ない。果皮の赤い色は日川白鳳よりやや少ない傾向にある。味わいは日川白鳳と似ており、果汁がたっぷりでジューシーな味わい。とろける食感から何ともいえないうまさがある。
新しい品種であり、統計値では栽培が盛んな都道府県の公表はないが、西日本地域での普及を見込んでいるという。栽培適地が西日本とされているのは、早生品種の栽培割合の高さに加え、地球温暖化による影響を見越しているから。冬場の気温が上昇しても、安定した開花と結実が見込め、安定的な生産に貢献できることが期待されている。
地球温暖化という課題の中から生まれたさくひめ。新たな品種が生まれることはうれしいことだが、その背景には複雑なものがある。和歌山県の特産品である桃の生産が持続可能なものであってほしい。(次田尚弘/和歌山市)