サントリー地域文化賞に 和歌祭保存会

地域文化の発展に貢献した団体・個人を表彰するサントリー文化財団の「第45回サントリー地域文化賞」に、紀州東照宮(和歌山市和歌浦西)の大祭「和歌祭」を復興・継承している和歌祭保存会(和中美喜夫会長)が選ばれた。「生ける伝統芸能の博物館」などと高く評価され、和中会長は「深い理解と支援を頂いている地域の皆さんのおかげと感謝している。祭りを後世につないでいきたい」と話している。

同賞は1979年に創設され、毎年5件の取り組みを表彰しており、県内からの受賞は2009年の南方熊楠顕彰会(田辺市)以来、14年ぶりとなった。

和歌祭は、徳川家康の十男で紀州徳川家初代当主・頼宣が創建した紀州東照宮の大祭。1622年に創始され、約400年の歴史がある。

神輿(みこし)や山車が渡御し、40種類以上の芸能を披露しながら練り歩く祭りで、各芸能は家臣団による「株」と呼ばれる組織が担い、明治以降も旧藩士らが代々継承してきたが、資金面の課題などにより太平洋戦争中に途絶えた。戦後の1948年、商工祭の一環として和歌山市中心部を会場に再開されたが、84年に再び中断される歴史をたどってきた。

保存会は85年、和歌浦地区の住民を中心に結成され、当時10程度存続していた株の名簿を作成して株同士が連携できる体制を整え、祭りを再開。99年には保存会の若手有志が、現在の実行委員会の前身である青年部を結成し、存続していた株の継承者に教えを請い、祭りについて改めて学び直しながら、芸能の復興に取り組んできた。

和歌山大学などと協力し、2010年には「唐船(とうぶね)」の演目で歌われていた「御舟歌(おふなうた)」、12年には「餅搗踊(もちつきおどり)」のおはやし、17年には、当時日本に来た外国人を模した演目「唐人(とうじん)」を復興。復興した株は、地域住民が主体となって持続できる形を整えてきた。

13日、保存会の和中会長と保井元吾顧問、同賞選考委員の一人、国際日本文化研究センターの磯田道史教授が県庁で記者会見を行った。

磯田教授は和歌祭について、「前近代芸能の生ける博物館と言っていい」と高く評価。能楽の基である田楽の踊り、雅楽をはじめさまざまな芸能の要素が集められていることに加え、「唐人」のように徳川時代の国際関係を可視化した演目を、留学生と共に復興した取り組みなど、「今の社会に生きている祭りとして再生している姿も非常に感動的なこと」と述べた。

さらに、江戸時代には日本各地で行われていた東照宮祭礼の多くが縮小し、失われてきた中、「ここまで丁寧に復元に執念を燃やしている地域はない」と指摘し、「さすがに徳川御三家の町」とたたえた。

保井顧問は、商工祭の中で和歌祭が行われていた時代について、パレード的な要素が強く、本来の神事としての形に戻し、和歌浦の地で祭りを行いたいとの強い思いがあり、株を継承する親方から学び、地元の子どもたちに継承する形をつくってきたことを紹介した。

和中会長は「芸能の指導者、後継者、衣装や道具を保存していくのが、保存会の意義だと思う。活動を続けて、次の世代に伝承していきたい」と意気込み、和歌祭がかつて天下三大祭の一つに数えられていたことにもふれ、「もっと大きなお祭りにしたい」と話していた。

 

受賞発表の記者会見をする(左から)保井顧問、和中会長、磯田教授

 

和歌祭の「御舟歌」(2022年)