コストカット型経済の転換を 首相所信表明演説の時代認識
岸田総理は、臨時国会の所信表明演説で、極めて重要な時代認識を示されました。
まずは現在について、「この30年間、日本経済はコストカット最優先の対応を続けてきました。人への投資や賃金、さらに未来への設備投資・研究開発投資までもが、コストカットの対象とされ、この結果、消費と投資が停滞し、さらなる悪循環を招く。低物価・低賃金・低成長に象徴される『コストカット型経済』とも呼びうる状況でした。しかしながら、30年ぶりに新たな経済ステージに移行できる大きなチャンスが巡ってきました。(中略)物価上昇を乗り越える構造的な賃上げと脱炭素やデジタルなどの攻めの投資の拡大によって消費と投資の力強い循環が本格的に回り始めます」との認識を示されました。その上で、「『低物価・低賃金・低成長のコストカット型経済』から『持続的な賃上げや活発な投資がけん引する成長型経済』への変革です。そして『コストカット型経済』からの完全脱却に向けて、3年程度の『変革期間』を視野に入れて、集中的に講じていきます」と表明されました。
リチャード・クー氏が指摘したように、1991年前後のバブル崩壊から、企業は借金返済に終始し「バランスシート不況」が続きました。2005年ごろには日本企業のバランスシートはおよそきれいに改善したものの、その後も企業は「羹に懲りてなますを吹く」例えのように借金拒絶症に陥り、さらにそのタイミングで発生した08年のリーマンショックにより、さらなる自己防衛に走りました。その後、借金返済の動きはピークアウトしたものの、企業部門全体としてはまだお金を借りていない状態が現在まで続いています。
さらに、2013年に第2次安倍政権の発足した当時、円高や高い法人税率など企業の6重苦軽減が大きな課題のなかで、甘利大臣が自民党税調の場で、アベノミクスを成し遂げるには法人税率を引き下げ、賃上げと設備投資を企業に実行してもらわなければならないと強く主張されたことを覚えています。ただ、法人税率の引き下げ後も企業は余力を内部留保に回し、賃上げにも設備投資にも積極的でありませんでした。
その結果、バブル崩壊後の30年間に、毎年平均2~3%の経済成長を遂げた諸外国と成長しなかった日本の間には6~9割の差が生じたことになり、賃金と物価の差となって現れました。コロナ後の海外旅行で実感された方も多いと思います。
この傾向が今後も続けば、賃金の安い日本に外国人労働者は来ず、マグロなどの買い負け、さらに企業や土地などの買収が起こります。まさしく「安い日本」と揶揄されるゆえんです。
岸田総理の表明のように、今まさに「コストカット型経済」からの転換期です。
日本維新の会の「身を切る改革」は、あえて申し上げれば、コストカット型の「平成の改革」です。これからは「令和の改革」、すなわち「構造的な賃上げと脱炭素やデジタルなどの攻めの投資の拡大によって、消費と投資の力強い循環」を本格的に回していくことが重要です。
ただ、「身を切る改革」でなく、「1円たりとも無駄にしない改革」をしっかり行うことは当然のことです。