松谷武判さんら 県文化表彰に4人1団体

和歌山県の文化向上、発展に貢献した人や将来一層の活躍が見込まれる人に贈られる2023年度県文化表彰の受賞者に、「文化賞」の現代美術家・松谷武判さん(87)=フランス・パリ=ら4人と1団体が決まった。1964年度から実施し、今回で60回目。表彰式は来年1月15日に県庁正庁で行い、受賞者には表彰状と徽章(メダル)、副賞が贈られる。(受賞者の年齢は表彰式現在、写真は県提供)

「文化功労賞」は歌人の松山馨さん(93)=和歌山市=、「文化奨励賞」はシンガー・ソングライターの川島ケイジ(本名・敬治)さん(46)=東京都=、補綴家(ほてつか)、ドラマトゥルクの木ノ下裕一さん(38)=京都市=、紀州の民話をオペラに実行委員会(杉山みかん代表)=和歌山市=に贈られる。

受賞者の主な経歴と功績は次の通り。

 【松谷武判さん】
大阪市生まれ。両親は九度山町出身。小中学生時代の約4年を湯浅町、串本町、田辺市で過ごす。1963年、具体美術協会の会員となり、発売直後のビニール接着剤を用いた有機性と官能性を感じさせる作品で注目を集める。66年、フランスに留学し、現在に至るまでパリで制作を続ける。東洋人的な墨の黒を彷彿させる鉛筆の黒と接着剤による柔らかな凹凸を主題とした作風を確立し、19年のパリ国立近代美術館(ポンピドゥー・センター)での個展には12万人が来場するなど、世界的に高く評価されている。

受賞を受け、「和歌山県在住の頃より絵が好きで今日まで『美』の追求をしております。美は人間が感じる唯一純粋な感性です。創作する者も鑑賞する者も同じ次元にありお互いに分かち合えます。物質欲、闘争は成り立ちません。今、我々に必要な感性です。ありがとうございます」とコメントしている。

 【松山馨さん】
和歌山市生まれ。県立和歌山高等女学校を卒業後、県職員として勤務。25歳の時に「和歌山短歌会」を結成し、一貫して短歌の創作に情熱を注いできた。55年以来、自身の歌集『花籠』、『春暁』、『城のほとり』、『序破急』、『動線』(日本歌人クラブ近畿地区優良歌集賞受賞)を世に出す。県歌人クラブ会長、同名誉会長、和歌山刑務所篤志面接委員、日本歌人クラブ近畿地区ブロック委員など、さまざまな立場から短歌を愛する人々を増やし育て、功績は大きい。

 【川島ケイジさん】
南部川村(現みなべ町)生まれ。中学生の頃に独学でギターを学び、県立南部高校を卒業後、ロックバンドを結成し音楽活動を開始。バンド解散を機に単身上京し、16年にメジャーデビューを果たす。20年には配信シングル「シロヨヒラ」がデイリー総合シングルダウンロードランキング1位を獲得。みなべ町ふるさと観光大使を務め、地元和歌山への愛情も深く、今後一層の活躍が期待される。

 【木ノ下裕一さん】
和歌山市生まれ。小学3年生の時に上方落語を鑑賞し衝撃を受け、市内の地域寄席や落語会に通い、古典芸能全般に興味を抱く。京都造形芸術大学で学び、在学中の06年、自身が補綴・監修を務め、古典演目の現代的上演を行う「木ノ下歌舞伎」を旗揚げ。古典演目の資料を徹底的に調べ上げ、現代によみがえらせる取り組みを続け、16年に「勧進帳」が文化庁芸術祭新人賞を受賞するなど、高い評価を受けている。

 【紀州の民話をオペラに実行委員会】
和歌山の民話や史実に基づく物語をオリジナルの音楽劇とするため、15年10月1日に発足。岩出市根来の住持池の伝説を題材とした「住蛇が池の花嫁~岩出市~」、旧貴志川町に伝わる民話を基にした「国主淵物語」などを上演している。出演者は声楽家のみならず、尺八、長唄三味線の奏者など作品の世界観に応じて多様性に富む。点字プログラム、音声ガイド、舞台上での手話通訳なども率先して用意し、誰もが楽しめる環境づくりに取り組んでいる。